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犬がいないと、何となくひま【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

この間、あるイベントがあり、そこで犬と暮らす人たちと話した。都合の悪いことは聞こえないふりをしたり、自分が興味のないことに飼い主が熱中すると露骨につまらなそうな顔をするといった「犬あるある」で笑ったり、複数飼いの場合、どこもだいたい末っコはいくつになってもガキンチョのままなんだと知り「面白いよねえ」と話したりしていた。

犬飼いの抱く共通の思い

かつては犬と暮らしていたけど今はいない、という人とも話した。そんな人たちが共通していたのは、愛犬がいなくなった直後の底のない喪失感と、時間が経っても愛情が薄れることはないということだった。
そして皆、何となくひまになったという。それは私も経験したから分かる。あれだけ毎日掃除しても抜け毛を巻き散らかしてくれた富士丸がいなくなると、掃除機をかける必要がなくなった。散歩にも行かなくていいから早起きする必要もない。ゴハンも水も、用意しなくていい。
出かけたときも、誰も留守番していないから慌てて帰る必要はない。頭では分かっているのだが、長年染みついた習慣で毎回「あ、そうか」と気づく。さらに体が覚えていて、意識していないのに家の中でいつも彼が居た場所に自然と首が向いてしまう。そして「そっか、いないんだ」と思う。
その度にふっと頭をよぎる、くつろぐ姿や表情や手触り。その瞬間、胸がぎゅっとなり、時間と共に少しずつ和らいでいく。いない生活にようやく慣れたかなと思った頃、洗濯機の裏などからひょっこり抜け毛が出てきたりして、涙が頬を伝う。皆同じなんだなと思った。

そばにいると、しっくりとくる

年齢的にもう犬を迎えることはないだろうという人が多かった。中には「このコと暮らした10年が最高に幸せだった」と言いながらスマホに残った写真を見せてくれた方もいた。白と茶色のミックスで賢そうな目をしていたからそう言うと、実際にものすごく賢く空気を読む優しい犬だったらしい。
「このコと暮らした10年が最高に幸せだった」というのも、すごく分かる。なぜなら私も、富士丸と暮らした7年をそう思っているからだ。ただ、あんな時間はもう二度と来ないと思っているかもしれなけど、そうとも限らないと、私は言った。
たしかに犬と暮らすのは、体力もある程度は必要だし、年齢的なこともある。でも万が一のときのための引受人がいれば譲渡してくれる保護団体もあるし、成犬譲渡もあれば、一時預かりのボランティアだってある。
もちろん迎えるかどうかは自分で決めることだし、安易に勧めるつもりはまったくないが、きっと一度犬と暮らした人は、そばに犬がいるのが当たり前で、それがしっくりくる体質になってしまったのではないかと思う。私がそうであるように。
だから犬を救うというよりは、自分のためと考えてみるのもいいかもしれない。犬がいると、毎日散歩には行かないといけないから適度な運動になるし、他にもやらなくちゃいけないことが増えるから生活に張りが出る。何となく暇ではなくなるのだ。すると犬は喜ぶから、見ている方も嬉しくなる。きっと先代犬とは別の、幸せな時間がまた訪れると思う。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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