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もしも彼らがいなければ【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

少し前に『素晴らしき哉、人生!』という映画を観た。1946年にアメリカで公開された76年前の古い映画だ。そんな有名な映画を今頃? と思うかもしれないが、私は『ブレードランナー』や『時計じかけのオレンジ』とか『未来世紀ブラジル』といったどちらかといえばサブカル系を好んで観て育ったので、名作といわれるような古い映画はあまり通っていない(『ゴッドファーザー』は別)。ひねくれたガキだったのだ。

年齢を重ねると響くものがある?

ではなぜ今観る気になったのかというと、若者にはそれほどでなくても、年をとると心に響くものがある、という人の感想をいくつか目にしたからだ。かいつまんでストーリーを書くと、こんな感じだ。
アメリカの小さな町で育った主人公のジョージ・ベイリーは紆余曲折ありながらも結婚し、子どもにも恵まれ、会社を経営して幸せそうに暮らしていた。ところがある日、会社の存続に必要なお金を紛失してしまう。そのお金がないと会社は潰れてしまう。必死に探すが見つからず、追い詰められ、酒を飲んで自暴自棄になり、自殺して保険金でなんとかしようと川に飛び込もうとする。
しかし、そのとき老人が先に川へ飛び込んだため、助ける方を優先する。命を救った老人に、ジョージは「自分は死ぬべきだ、自分がいない方がみんなが幸せになる」と語る。実はその老人は「(二級)天使」で、ジョージを救うために来て、注意を引くために自分が飛び込んだのだ。そして肩を落とすジョージに「ではその通りにしてあげよう」と言う。
2人で町に戻ると、以前の様子とはまったく違い(ジョージは住宅販売の仕事をしていた)、友人だった人も馴染みの店でも誰ひとりジョージを知らない。奥さんとも結婚しておらず、子どもたちと暮らしていた家は廃墟になっている。そんな現実を受け止められないジョージは、老人に「すべてを元に戻して欲しい」と頼み込む。しばらくすると、通りかかった顔見知りの警官がジョージに話しかけてきて、元通りの世界に戻ったこと喜び、人生ありがたみを改めて知る。そして、紛失したお金はジョージを心配して集まった人たちによる寄付金で穴埋めでき、老人はいなくなった。と、そんな話(もっと色々あるし展開が分かっていても観られると思うよ)。

もし彼らがいなかったら

たしかに若い頃なら響かなかっただろう、と思う。しかし50歳になる今観ると受け取り方がまた違ってくる。映画の主人公(設定)とは違い、私がいようがいまいが何も変わらず、滞りなく世界は動く。でもこれまで生きてきた中で様々なことがあったし、こうして生きているだけでありがたいと思うようになった。
そんな私の人生を振り返り、犬に関して「もし彼らがいなかったら」と想像してみる。
大吉と福助を迎えていなければ、山の家は買っていなかっただろう。鎌倉市腰越にも引っ越していなかったかもしれない。さらに遡れば、先代犬の富士丸がいなかったら、私はライターにもなっていなかっただろう。
そう考えると、犬たちは私の30代以降の生き方に大きな影響を与えた存在であることは間違いない。もちろん犬だけでなく、あのときあの人と出会っていなければという恩人は何人かいる。けれど、犬の方が圧倒的に影響が大きいのは確かだ。
私に限らず、犬(猫)と暮らしている(暮らしていた)人は、その犬と出会ったことで思いがけない変化があったり、考え方が変わったりしたのではないだろうか。
かつて馳星周さんが「犬は天使だ」と言っていたが、本当にそうかもしれないと思う。年齢を重ねるにつれ、その思いが強くなっていく。羽もないし、天使のイメージとはまったく違うけど。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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