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音に怯える犬の謎「穴澤賢の犬のはなし」

音に怯える犬の謎

この記事を書いているころに、江ノ島の花火大会があった。歩いてすぐの腰越の浜辺に行けば間近に見えて綺麗なはずだが、これまで一度も行ったことはない。花火の音が聞こえてきた瞬間から、大吉が挙動不審になるからだ。
若者が夜に砂浜でやっている打ち上げ花火の「パン!」という音にもビビっている大吉にとって、花火職人があげる本気の「ドォォーン!」の連続は恐怖の極みなのかもしれない。ずっと私のそばから離れようとせず、ブルブル小さく震えて、ハァハァと落ち着かない。いつもの顔と全然違う。だからといって何もしないが(何をしてもムダだから)、留守番させるのもなんだか悪い気がして家にいる。
言葉を話せるなら、花火の何がそんなに怖いのか説明してもらいたい。音はたしかに大きいから多少はびっくりするかもしれないが、それ以外に何か嫌なことでもあったのか。一切ないだろう。なのに、なぜそんなに怖がるのか、意味がわからない。花火だけではない。大吉は、雷も暴走族の音にも怯える。変わったところでは、建築現場で大工が使うエア釘打機の「パスッ!パスッ!」という音も異常に怖がる。どうも「破裂音系」が苦手らしい(雷は違うと思うが)。
ただ、これは生まれつきではない。幼いころは、夕立で「ゴロゴロ、ドッカーン!」と外が急に騒がしくなっても、窓際でスヤスヤ昼寝していた。こんなにうるさいのによく寝れるなお前、と感心したほどだった。それが2才を過ぎたころだったか、ある日夕方の散歩中に雷が遠くの空でゴロゴロいってるな思っていたら、突然怯えだした。その日からは、家にいても雷怖い病になっている。バイクの爆音や、エア釘打機もそんな感じで、ある日を境に駄目になった。
思えば富士丸もそうだった。記憶が定かではないが、たしか5才くらいからそれまで平気だったのに急に雷に怯えるようになった。でかい図体のくせに仕事中の人の机の下に潜り込んで来るので、すごく邪魔だったのを覚えている。机の下で、あいつは何から身を守ろうとしていたのだろう。
そういうことを考えると、犬は成長するに従い、本能的に雷や破裂音を恐れるようになるのだろうか。富士丸が5才、大吉が2才だった。4才の福助は、この先はたして怖がるようになるんだろうか。大吉が花火の音にブルブル震えている隣で、今はまったく動じていないのだ。というか、ここだけは大吉に見習って欲しい。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。株式会社デロリアンズ代表。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。
ブログ「Another Days」


大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雪と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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