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私が疑問に思う「犬の能力」【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

一般的に、犬は人より優れた感覚を持っているといわれている。代表的なのが嗅覚で、人間の3000倍以上あるらしい。聴覚も、人間には聞き取れない高周波音域でも犬は聞こえるし、視力はそんな良くないが動体視力は人より優れている。というような話は犬好きなら誰でも聞いたことがあるだろう。そのため、災害救助犬や麻薬探知犬として活躍している犬もいる。

犬の能力に感じる疑問

ただ、長年犬と暮らしてきた私から見ると「本当にそうか?」と疑問に感じることは多々ある。たしかにしっかり訓練すれば、どんな犬でもそのような能力を生かせる潜在能力は備えているのかもしれない。けれど、普通に暮らしているとどんどん鈍っていくのではなか、と疑っている。
たとえば、先代犬の富士丸は、散歩中によそ見しながら歩いていて電柱にゴチンと頭をぶつけたり、おどかすつもりではなく背後から声をかけると、ビクッと振り返ることがあった。気配くらい感じないのか? 君の五感はどんだけ鈍いんだ? とよく思ったものだ。
それだけでなく、爆睡してワンキャン寝言で吠えたり、ゆすってもなかなか起きなかったり。それは五感の前に、犬の本能としてどうなのかと思うことがよくあった。運動神経はとても優れていて走っても早かったが、山で調子に乗って下り坂を全力疾走して、自分の能力を超えたスピードになり思い切りずっこけたのを間近で目撃したこともある。
大吉と福助も似たようなもので、投げたボールを口でキャッチしようとして失敗したり、顔面で受けたりすることはしょっちゅうだ。動体視力がいいんじゃないのか?
さらに、寝ている大吉の鼻先に茹でた鶏肉を置いてみるとどうなるのかと実験したことがある。すると、なんと一切反応なしで、ゆすっても起きなかった。そのときの動画はインスタにアップしたから見てもらえば分かるが、どこが人間の3000倍の嗅覚なんだ? と思う。

愛犬から感じる“見えない能力”

また、2017年に八ヶ岳の山の家を手に入れたとき、当初はボロ小屋で、夜な夜な天井裏からネズミが走り回る音が聞こえてくることがあった。管理事務所に対策を聞いたところ、犬がいるならネズミが恐れてすぐ来なくなると思います、とのことだった。しかしネズミはそれからもちょくちょく潜り込んで来た。夜中に天井から聞こえるガサゴソという音で目を覚ますと、隣で大福はスヤスヤ眠っていた。ネズミに恐れられないわけだ。
山の家の前に宅配便のトラックが停まったり、誰かが訪ねてくると、大福はいち早く察知してワンワン吠えることがある。それはそれでいいのだが、うるさく吠えるから「ん? 誰か来たのか?」と外を見てみると誰もないなんてことがよくある。「誰もいないじゃん」というと、大福そろって「誰か来たと思ったんだけどなぁ」という顔をする。正解率は50%くらい。なので彼らは全然信用できない。
以上のような「事実」から、私は犬の能力には懐疑的だ。ただし、それは犬の五感に関してであって、それ以外の「目に見えない能力」はあると思っている。
その能力とは、一緒に暮らす人の行動を変えたり、やる気を起こさせたり、細かいことを気にしなくさせたり、なんとなくほんわかした気分にさせることだ。
具体的に私の場合、元々夜型だったのが散歩のせいで生活サイクルが規則正しくなった。さらには、山に家まで手に入れ、最終的には山に完全移住することになった。犬と暮らすまで山はおろかアウトドア全般に興味がなかったのに、最近は犬と登山することに喜びを感じたりしている。まさに人が変わったように。すべては彼らがそうさせている、そうしたいと思うように仕向けられている、としか思えない。
正月に妻が大福を連れて実家に帰り、私は1週間ほど1人で過ごしていたが、その間ほとんど何もしなかった。自分でも驚くほど何もする気にならず、活力がゼロ状態だったのだ。おかげで長い正月になってしまったが、犬の力を再認識した。
というわけで私の結論として、犬にも鈍くて頼りにならないやつはいるが、なぜかそばにいる人を元気にさせる不思議な力を持っている。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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