先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
腰越(鎌倉市)から八ケ岳(諏訪郡原村)に移住して約1カ月経ったが、大吉と福助はもうここに定住することになったと気付いているのだろうか。2017年夏から始まった2拠点生活で、山に来ても数日滞在したら必ず腰越の自宅に帰っていたけれど、もうそんな必要はないと認識しているのだろうか。言葉を話さないから分からないが、どうなんだろう。
八ヶ岳に移住して気付いた変化
ただ、こっちで暮らすようになってから彼らに変化が見られる。まず1つ目は、散歩の足取りが軽くなったこと。腰越にいるときは、徒歩3分ほどの砂浜が散歩コースだったが、海とか景色とかどうでもいい彼らにとってそこは「用を足す場所」という感覚で、ことが済んだら「帰る」と踵を返していた。
それが山だと後ろ姿がどこか楽しそうで、あちこちくんくんニオイをかぎながらズンズン歩く。散歩コースは彼らに任せて行きたい方向へ付いていくのだが、別荘地内を結構な距離歩き回るので私としてもいい運動になる。
次に、朝夕の散歩から帰った後、ドッグランでバトルするのが日課になっている。以前からちょくちょくそんなことはあったが、遊ぶ時間が長くなった。福助は全力疾走でドッグランを駆け回ったり、大吉はボールを投げてと催促してきたり。特に大吉は「そろそろ家に入ろう」と言っても、まだ遊びたいという顔をする。つまり、なんだか元気になったのだ。
12才と9才なのに、ちょっと動きが若返った気もする。それがうれしく、寒いから早く家に入りたいけどしばらく彼らに付き合っている。
勝手に遊んでくれればいいのに、なぜか「見ている役」がいないと気分が盛り上がらないらしい。「走っているオレを見て!」ということなんだと思うが、そういえば
富士丸もそうで、私に見られているとうれしそうに走っていたっけ。犬にはそういう気質があるのだろうか。
山の家を落ち着ける自分の家に
もう1つは、留守番を妙に寂しがることだ。腰越のときは、私がちょっと出掛けても見送りも出迎えもなく、本人たちは寝室で爆睡していたが、山の家だと出掛けて帰ると福助が小さい声でキュンキュンいいながら出迎えてくれる。その少し後ろに大吉がいて、「どこ行ってたの?」という顔をしている。
これまで山の家に来たときは、どこへ行くのもだいたい一緒で留守番させることが少なかったからかもしれない。とはいえ、ここで暮らすとなると買い出しでスーパーに行ったりするのは必然だし、ある程度は留守番する機会が増える。
留守番が寂しいのは、まだ山の家を自分が落ち着ける「本当の家」だと認識してないのだろうか。私が車で出掛けたとき、福助が窓からじっと見ていたりする。腰越では、仕事部屋にも気分で来たり来なかったり、呼んでも3階の寝室から降りてこなかったりしてたのにね。まぁ、そこは慣れてもらうしかない。
その一方、夜、彼らが先に寝室に行くことが増えたように思う。だいたい20時半頃になると、大吉が「寝る前にオシッコしておきたい」と目で訴えてくるので、大福を外に放つと、ドッグランでそれぞれオシッコをして戻ってくる。そして、家に入ると、トントントン階段を登って寝室に消える。
そんなことは腰越でもあったが、もはや山ではそれが彼らのルーティンになっている。まぁ、不安だったり、遊ぶ時間が足りていなかったり、愛情が不足していると感じていたらそんな愛想ない態度はしないはずだから、たぶん今日1日満足したということなのだろう。ということは、山での生活が彼らにとってもしっくり来たのかな。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。