先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
少し前の日曜の夕方、大吉が左前足をどこかに引っ掛けて爪がはがれた。どこをどう引っ掛けたらそんなに綺麗にはがれるんだ? というくらい根本から取れた。2年くらい前にも同じように爪がはがれたことがあるから、大吉は爪が弱いのか。でもそのときよりひどく、直後は出血していたのでとりあえず包帯でぐるぐる巻きにして、月曜の朝を待った。
足のけがで発生したトイレ問題
こういう場合、動物病院に行ったところでどうしようもなく、新たな爪が生えてくるのを待つしかないが、消毒してもらい、化膿しないよう抗生物質と、それから痛み止めをもらってきた。
相当痛むようで、左前足を地面につけることができず、残りの3本足でぴょこぴょこ歩く。家の中ではあまり移動はせず、それでも散歩には行かないといけないから(外でしか排せつしないから)、階段と坂道は抱っこして運び、平坦な道でおろして歩かせてみた。
すると、オシッコはなんとかしてくれたが、踏ん張れないのかウンチはしない。するかもしれないから歩かせてみるが、ぴょこぴょこ歩く姿が痛々しい。進むのがとても遅い。なぜか福助もその歩調に合わせ、ささっとオシッコとウンチを済ませ「帰ろうよ」とUターンしようとする。
「いや、まだ大吉はウンチしていないから、もう少しだけ歩こう」と福助に言って、大吉を促す。いつもの散歩コースなんて歩けるわけがなく、ほんの100メートルほど進んで、どうやらウンチしなさそうなので抱きかかえて引き返す。
朝、痛み止めを飲ませて、少しだけ散歩して、家に戻るとほとんど動かず、じっとしている。そんな日が何日も続いた。痛くて歩けないのは仕方ないとして、月曜からずっとウンチが出ていないことが気がかりだった。食べるのはいつも通りだから、出るはずなのに。
その間、福助も目に見えて元気がなく、しょんぼりしていた。なぜか私も食欲がなくなり、夕食を少し食べたら、大吉を抱えて寝室に移動し、早めに寝るようになっていた。
回復した大吉、15才になる。
大吉がウンチしないまま、金曜になった。もし今日しなければ動物病院に行って強制的に出させようと思っていたら、してくれた。同時に、左前足を少しだけ地面につけて、4本足で歩き出した。ただ、まだちょっと痛むのか、少し歩いてはぴょこぴょこ、少し歩いてはぴょこぴょこだったが、それでもすごくうれしかった。4日ぶりに歩けただけなのに、心から安堵した。
その後、数日でほとんど問題なく歩けるようになり、また数日経つと、今度はちょっと横っ飛びしてはしゃいだりできるようになった。大吉が回復するに従って、福助のテンションは高くなり、いつものように走り回るようになった。私の食欲も戻った。
なんだか、大吉はわが家の原動力のようだと思った。でもきっと、福助の具合が悪くなると、みんなに伝染するんだろうなと思う。
そして、爪が伸びるのを待つのは変わりないが、大吉はほぼ以前と同じように動けるほど回復した。そんな2026年8月17日、大吉は15才になった。もうそんなに経つのか。
大吉が来てくれたことで、
富士丸 ロスでモノクロームの世界でただなんとなく生きていた私はみるみる復活し、そこに福助が加わり、「2人と2頭」になり、八ヶ岳に完全移住した。大吉がいなければ、決してこうはなっていなかっただろう。
もうそんなに早く年をとらなくていいよ。でも、誕生日おめでとう。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」 というブランドを立ち上げる。2023年11月、犬のために八ヶ岳へ移住する
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
『犬のために山へ移住する』(草思社刊)