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犬たちとフェリー（大福の場合）【穴澤賢の犬のはなし】
前回書いた四国の旅だが、帰りはフェリーにした。当初は行き帰りとも車でもいいかと思ったが、腰越（鎌倉市）から四国は遠い。ちょくちょく休憩しながらだと香川県まで9時間半もかかった。旅の帰りは疲れているものだ。大福もずっと寝ているだろう。なら、フェリーでいいのではないか。そのほうが人間も楽だし。
調べたところ、徳島県から東京までペット可の客室があるフェリーがあった。しかし2部屋しかなく、それ以外だとケージが並ぶ専用の部屋で出発から到着まで人間と別々になる。大福はそんな経験がなく、不安でたまらないだろう。せっかくの旅の最後にそんな思いはさせたくないので、事前にペット可部屋の予約を取っておいた。
気がかりだったのは時間だ。午前11時半に徳島を出航し、東京（有明）着は翌朝5時の約17時間の予定。その間、彼らのトイレはどうしよう。航行中は客室から犬を出してはいけないというが、仮に出したところで土の上でないと用を足さない。まぁ部屋にペット用のトイレもあるし、がまんできなくなったらするだろう。
そう思ってフェリーに乗る直前に駐車場脇の草むらでオシッコをさせて乗船した。客室に入ると間もなく出航したが、この日は低気圧の影響で揺れるかもしれないとのアナウンスが。それに、床からエンジンの音と振動が絶え間なく伝わってくる。大きなフェリーなのでもっと静かかと思いきや、意外に大きな音だった。
音に敏感な大吉はそれが嫌なようだった。ずっと落ち着きなくハァハァと動き回っている。さらに座っているとあまりわからなかったが、歩いて船内を移動すると、ときどき「おっとっと」とよろめくほど揺れる。何かに捕まらないといけないほどではないが、低気圧による波の影響なのだろう。車は平気な大吉も、船の揺れは嫌なようだ。
抱き上げて窓の外を見せ、海の上を移動していることを理解させようとしたが、犬には理解できないらしい。「ん？何これ」という不思議そうな顔をしていた。17時間というは、人間も暇だ。本を読んだり、テレビを見たり、お酒を飲んだりしても、なかなか時間が進まない。
旅の疲れもあるだろうから大吉も寝ていればいいのに、眠れないらしい。ウトウトしても揺れですぐ起きる。福助は平気そうだったが、大吉が不安そうにしているので、やっぱり落ち着かないらしい。
本来であれば夕方の散歩に行く時間をとっくに過ぎた頃、トイレシートにオシッコをするよう促したが、どちらも無視。まったくするようすはない。したくなったらするだろうと思ったが、そんな素振りも見せない。そして深夜を過ぎ、いつの間にか寝てしまう。
起きたら窓の外はうっすら明るく、東京湾に入っていた。大吉と福助はよく眠れなかったようすで、疲れた顔をしていた。到着後、車で船から降りると、急いで草むらを探して彼らを降ろした。すると、どちらもすぐにジョロロロロとかなり長いことオシッコをしていた。なぜそんなにがまんするのか理解に苦しむ。
フェリーだと人間も犬も楽だろうと思ったが、神経質な大吉には苦行だったようだ。こちらも心配して疲れた。どちらも帰宅するとすぐに爆睡していた。今度旅するときは、往復車のほうがいいかなぁ。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』（世界文化社）、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年１月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約２カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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