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初対面の犬にやってはいけないしぐさ|連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.131

「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
今回は、犬が発しているボディランゲージのお話。「カーミングシグナル」と分類されるボディランゲージの中で初対面の犬にやってはいけないしぐさ・行動を、西川先生が解説します(編集部)。

数学の授業です。先生が黒板に問題を記しています。問題を書き終え、指先がチョークで白くなった手をはらい、こちらを向きました。
「この問題解ける人?」
と席を見回しています。
そのときあなたはどういったしぐさを見せるか。
もしあなたが先生に当ててほしくなかったら、あなたは先生とは目を合わないように、顔を伏せるはずです。
それも無意識に。
「私は先生に注目していないでしょ、だから先生も私に注目しないで」
しぐさで、そう無意識に訴えているわけです。
こうしたしぐさを犬も見せます。
ご存じの方も少なくないと思います。そう、カーミングシグナルです。

相手の心を落ち着かせるボディランゲージ

のちにカーミングシグナルと広まる犬のしぐさがあることを私が知ったのは、1994年から参加したJAHA(公益社団法人日本動物病院協会)の家庭犬しつけインストラクター養成講座でした。
提唱者はノルウエー人のトゥーリッド・ルーガス女史とされていました。
当時のテキストをひも解くと「ノルウェー流安らぎの合図」と紹介されています。
先の視線を外すしぐさは、「あなたに何かする気はない」「あなたも私に何もしないで」ということが相手に伝わる。前者は相手のストレスを軽減する効果があり、後者は争いを避ける効果があます(授業の場合は教師と争う訳ではありませんが……)。
相手のストレスを軽減させる、争いを避ける。これは、相手を落ち着かせるということでもあります。
翻訳サイトで「Calming Signal」と打ち込むと「心を落ち着かせる信号」と返ってきます。
ここで上げてきたカーミングシグナルの例は、すなわち「相手の心を落ち着かせるボディランゲージ」ということです。
「戦うつもりありませんので、あなたも戦いを挑まないでください」としぐさで(視線を外している)訴えている鉄三郎
Can! Do! Pet Dog School

自身の心を落ち着かせるボディランゲージ

話は変わります。
スポーツや何かの発表の、いざ本番というまさにその直前に、あなたは今います。
そのときあなたは、力を抜いて肩を上下させたり、体をぶらぶらさせたり、軽いストレッチをしたり……といったしぐさをしませんか?
そう、体をほぐすしぐさ。
なぜ体をほぐす必要があるのか。それは緊張で体が固くなっているからです。
体と心は同調関係にあります。体の緊張をほぐすためというのは心の緊張をほぐすためでもある。
体をほぐすしぐさは、相手ではなく「自身の心を落ち着かせるボディランゲージ」の場合もあるということです。
犬も見せます、同様のしぐさを。
例えば「ブルブルと体を振る」というアレがそうです。
体をブルブル振っている連続写真。本来は背中にある毛の濃い部分を脇腹まで動かして体をほぐしている
Can! Do! Pet Dog School

ストレスサインとしての理解

緊張をほぐすためのしぐさを見せているということは、現在ストレス状態にあるか、それまでストレス状態にあったか、ということ。
すなわち、犬が「ブルブルと体を振る」しぐさを見せたときは、ストレス状態にあるかストレス状態にあったかを意味している。そうしたケースもあるのです。
こうした理解(カーミングシグナルの理解)は、犬と仲良くなる、犬との共生を目指すためには不可欠です。

なぜなら、そのストレスの原因があなたかもしれないからです。であればその状況を変え、ストレス軽減にあなたは努めないといけません。
ストレスをかけてくる相手とは仲良くなれません。仲良くなれない相手とは共生は望めないからです。
もっとも共生など望むべくもない、犬は服従させる存在と考えているのなら(昭和の時代の犬との関係を望んでいるのなら)、その限りではありません。

ちなみに、昭和の時代は、犬とのファースト・コンタクトでは視線を外してはいけない、とされていました。視線を外すのは、負けを意味するから。勝ち負けとは力の優劣を、支配・服従関係をそこに求めているから。
仲良くやっていこうとするのであれば(共生を望むのであれば)、初対面ではやってはいけないしぐさのひとつなのです。
犬への視線を外す。このしぐさは明らかに初対面での犬へのストレスを軽減させる効果がある。
そうカーミングシグナルの中には、我々が示すと犬に伝わるしぐさがあるのです。
さてここからが……といった感じではありますが、続きはまたも次回に持ち越すということで。今回はこれにて失礼いたします。
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
https://cando4115.com/

西川文二氏 プロフィール

公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can! Do! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(17才)、鉄三郎くん(12才)ともにオス/ミックス。
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