福助の変化
もうとっくに過去のトラウマは克服しているはずの福助。ここ最近その態度が少し変化してきたことに気がついた。わが家にやってきてまだ一年経たない小僧だが、彼もいろいろ思うところはあるようで……。
警戒心が強かった福助はもうふつうにフレンドリーな犬だし、どこを触ろうがなすがままで、すっかりわが家にとけ込んでいる。ただ、とにかく大吉にべったりだった。大吉が寝室に行けばその後ろをついて行き、大吉が仕事部屋に来れば一緒についてきた。大吉は自らの意志で移動するが、大袈裟にいえば福助はただその後をついて回るだけ、という感じだった。
それから、イタズラがすぎて叱られたりすると、福助はしばらく近寄って来なかった。自分が悪さばかりするからなのに、叱れると「やっぱり人間は怖い!」みたいな顔になってよそよそしくなる。かまわず無視していると、またいつもの悪ガキに戻るのだが、数時間くらいは距離をとる傾向があった。
ところが最近はちょっとくらい叱っても、ぜんぜん動じないというか、一応反省顔にはなるのだが、前のように距離を置いたりはしなくなっていることに気がついた。それに、やたら私の後をついてくるようになった。それが叱った直後でも。実際にはそれほど叱ることはないのだが、以前とは明らかに何かが違う。
今も基本的には大吉のそばにいることが多いのだが、たとえば私が1階の仕事部屋からお茶を飲みに2階のリビングへと移動すると、福助がちょこちょことその後をついてくるようになった。大吉は賢いので、ちょっと行ってすぐ戻ってくるだろうと予測しているから、そういう無駄な動きはしない。
これまでなら大吉のマネばかりしていた福助が、自らの意志で行動するようになってきている。もちろんこれまでも自分の意志で行動していたとは思うが、少なくとも大吉と福助が離れた部屋に別々にいることなどまずなかったのに。かといって別に仲が悪くなったわけではなく、関係はこれまで通りだ。
穴澤家にやって来たころの福助
おそらく福助の中で飼い主への信頼度が増したのではないかと思う。これまでも十分心を開いてくれていると思っていたが最後の最後のところで、うす皮一枚信頼できない部分が残っていたのかもしれない。「どれだけ疑り深いんじゃい」と思うが、彼は彼なりの考えがあるのだろう。そんなことを思いながら、福助がわが家に来た当時の写真を見たら、顔つきがまったくと言っていいほど違っていて驚いた。犬の表情って、1年も経たずにこんなに変わるのね。