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犬とは言葉がなくても伝わる【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

ここ最近、福助の便意が少しズレている。散歩は朝夕の2回で、だいたいそのときにウンチする。するのは必ず土か砂の上で、なぜかアスファルトではしない。謎のルールだが、福助だけではく大吉も同じなので、彼らなりにこだわりがあるのだろう。だから毎回必ず、どんなに土砂降りの日でも、歩いて5分くらいの腰越海岸の砂浜まで行く。

変化するルーティーン

砂浜まで行けば大吉はわりとすぐにウンチをするが、福助はなかなかしない。でも歩くスピードなどからなんとなくもよおしているのが分かる。そういうときは、彼が納得できる場所を見つけるまで(砂浜だからどこでも同じだと思うが)、黙って後を付いて行く。大吉も自分の用は済んだのに、えらいことに黙って従う。それで無事に福助がウンチをしたら、彼らにとっての散歩は終わりである。
ただ、散歩中に福助がもよおしているそぶりを見せないことがある。そういうときは、次の散歩でする。これまではそうだった。ところが、このところ夕方の散歩でウンチしなかった場合、夜21時ころに砂浜へ行きたがる。
わが家は寝る前に、家の前の草むらでオシッコだけはさせるのだが、なぜかオシッコせず、大吉の足を拭いて家にあげると、福助がドアの方を何度もチラ見してアピールしてくるのだ。それで最初は「砂浜へ行きたいってこと?」と思いながら、福助だけ連れて砂浜まで行くと、しばらく場所探しをした後、ウンチした。
その次の日も、夕方の散歩ではせず、夜に砂浜へ連れて行かれた。その次の日も、その次の日も。どうやら、朝と夕だったウンチサイクルが、朝と夜になってしまったようだ。そんなわけで、夜寝る前に砂浜まで行くのがここ最近の日課になっている。
できたら夜遅くにわざわざ砂浜なんて行きたくないし、「夕方にしとけよ」と思うが、私は黙って従う。なぜなら、出来る限り犬の要求には応えようと思っているからだ。「もっとオヤツくれアピール」は無視するが、「最近つまんないからどこか連れて行けアピール」などは、この前書いたように『基本的に犬が正しい』と思っている。しかも排せつなどの生理現象は一刻を争うこともあるので、何を置いても優先するようにしている(なぜ家ではせずそこまで砂浜にこだわるのかさっぱり分からないが)。

なぜか伝わる犬のコミュ力

すごいと思うのは、そうした福助の便意が私に伝わっていることだ。仕草といってもドアをチラ見するだけ。それで自分がもよおしていることを示し、ちゃんと伝えるのはたいしたコミュニケーション力だと思う。これ以外にも、彼らが何を考えているのか、何を要求しているのか、言葉がなくても伝わってくることが多い。これは長年一緒に暮らしてきたからかもしれないが、家族でも何も言わずに伝わることなんてそんなにない。
そういう意味で、犬はやっぱり特別な存在なんだと思う。ところが昨夜、例によって福助がアピールをするので砂浜まで行くと、ウエーイ!と走り回ってばかりいて、結局ウンチをしなかった。なんなのだ。だったらなぜ砂浜アピールをしたのか。だいたいのことは伝わってくるが、何を考えているか分からないこともある。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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