1. トップ
  2. 犬が好き
  3. 連載
  4. 穴澤賢の犬のはなし
  5. 基本的に犬のほうが正しい【穴澤賢の犬のはなし】

犬が好き

UP DATE

基本的に犬のほうが正しい【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

この間、税理士さんと話しているとき、こんな話を聞いた。税理士さんの愛犬おはぎ(柴・メス・4才)が最近、事務所スタッフのカバンから手袋を盗み出し、金具を噛むという悪さがブームのようで、しかるとシュンとなるが、しばらくしたらまたやるので、高い位置にカバン置き場を作ったんだとか。

犬には人のルールは分からない?

税理士さんの愛犬おはぎ(柴・メス・4才)
それを聞いて私は言った。高い位置に置き場を作るのは対策としてはいいけど、たぶんまた違うことを探すと思いますよ、と。なぜなら、おそらく手袋を盗み出すのは飼い主の意識を自分に向けたいからだ。パピーや幼い時期ならいざ知らず、4才にもなると犬は「人間ルール」でやっていいこととだめなことは分かっているからだ。
分かったうえでやっているということは、何か訴えたいことがある。だからもしかしたら、最近愛情が足りていない(とおはぎが感じている)んじゃないですかねと言うと、たしかに正月休みは実家でチヤホヤされて過ごしていたけど、年明けからは仕事で忙殺されているのでさびしいのかもしれない。それでも愛情はかけているのになぁ、と言っていた。

自分に注意を向けるための作戦?

この場合、犬の方が正しい。犬がさびしいと感じているなら、そうなのだ。人間の都合など言い訳でしかない。とはいえ、いかなるときも常に犬の要求に応えなければいけないという話ではない。人間にも、避けて通れないことはある。だから本当はもっとかまってやりたいけど、おろそかになってしまうこともある。
きっと、おはぎはその差が不満で「いつもより少し愛情が足りない」と感じているのだろう。それで自分に注意を向けるための作戦ではないか、と思う。言葉を話さない犬はそうして訴えるしかないのだ。なので、棚を作っても根本的な解決にはならない。おはぎの訴えに応えるには、仕事が終わったら、一緒に遊んだり、話しかけたり、なでたりする時間をちゃんと持つことだと思う。
こう書くと、そんな偉そうなことを言ってお前はちゃんとできてるのか? と思われるかもしれないが、もちろんできていない。大吉と福助は、さすがにもういたずらはしないが、不満があるときは露骨に「つまんねーオーラ」を出してくる。
日々の散歩やごはんといったルーティンは絶対に怠らないが、たとえば仕事に追われていたり、外出する用事が重なったり、休日にイレギュラーなお出かけがなかったり(仕事で)、山の家にしばらく行けていなかったりすると、大福揃って「最近つまんねー顔」でふて寝したりする。
「分かるけど、こっちもやらないといけないことがあるんだよ」と言っても通用しない。愛情が足りないと感じるのは、犬の方が正しいからだ。だから私は必死で早く終わらせようと努力する。そしてなんとか片付けて「山、行くか?」というと、大福はパッと顔が明るくなって不満が瞬時に解消される。この繰り返しである。
いずれにしても基本的には犬の方が正しい。ただ、幼いころから何にでも要求に応えていると分離不安やモンスターになるので、中には諦めることを覚えてもらう必要がある。
一緒に暮らしていく中で、そうやってお互いのラインを作ることが大切だと思っている。これは人間関係でも同じようなものだが、犬のほうがストレートで分かりやすいし、だいたいは彼らの主張の方が正しいことが多い。そういうスタンスで犬の行動を見ていると、実感すると思う。もしかしたら「最近働きすぎじゃない?」と気遣ってくれているのかも。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
ツイッター
インスタグラム

大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
楽天ブックス
「犬の笑顔が見たいから」(世界文化社)楽天ブックス
CATEGORY   犬が好き

UP DATE

関連するキーワード一覧

人気テーマ

あわせて読みたい!
「犬が好き」の新着記事

新着記事をもっと見る