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ジャック・ラッセル・テリアの名演技映画『人生はビギナーズ!』
物語は、人間関係でいま一歩(いや三歩くらいかな?)踏み込めない30代前半の独身男性オリバーの現在と、亡くしたばかりの父親ハルへの回想が対位法的に描かれるというもの。じつは、父親のオリバーは70才を超えて妻(主人公の母親)を亡くしたあと自分がゲイであることをカミングアウトし、その後、末期がんになってしまうのですが、新しい恋人をつくったり、ゲイサークルに積極的に参加したり、じつに生き生きと情熱的に人生の終末を過ごすのです。主人公は戸惑います。それはそうですよね。母親と結婚して、息子(自分)も生まれた、その父親がゲイだって? さらには母親との関係についても疑念がわいてきます。ふたりはほんとうに愛しあっていたのか? そういえば母親はいつもどこか寂しそうで、奇矯な行動をとることがあった……。お互い愛しあいながらも、わだかまり、ためらい、すれちがう親子間の思いが日々の小さなできごとともに繊細に描かれていきます。一方、現在のオリバーは、父親と死別したばかりの哀しみもあり、内向的な性格にさらに輪をかけ、パーティーで知り合った女性と親密になりながらも、なかなか距離を縮めずにいます。別離を怖がるあまり、出会いのその先へと進めないのです。
オリバーは父親ハルの晩年の生き方を思い起こしながら、やがて新しい人生を生き始めます。ここでポイントとなるのは、やはりハルがゲイであったということでしょう。性や生き方の多様性については、いまでこそ「LGTB」が最新の広辞苑に載るくらい(その解説の誤りが指摘されもしましたが)、広く社会に認知されてきています。とはいえ、偏見や差別がまったくなくなったわけではありませんし、かつてハルが青春時代を送った時代はそうした偏見や差別は当たり前でした。ハル自身も、自分の性的指向を病気だと思っていて、妻(オリバーの母親)もハルのことを病気だと思っていました。悲しいかな、人間は時代の影響から逃れられないのです。カミングアウトしたハルは、長く抑圧されていたものを爆発させるように、自らに正直な人生をとことん謳歌します。『人生はビギナーズ!』(原題は『Beginners』です)に込められた意味とは、人生を生き始めるとはどういうことか、生き始めるのに年齢は関係ないということでしょうか。
文/犬神マツコ
DVD好評発売中 ¥3,800(税抜)
発売元:クロックワークス
販売元:アミューズソフト
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