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【獣医が教える】本当は怖い犬の貧血 –疾患と原因・症状・治療・費用の目安−

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貧血なんて大した疾患じゃない、そんな風に油断してはいませんか。犬の貧血は栄養不足や出血を伴う怪我といった人間にもいえるものだけでなく、寄生虫や感染症、中毒、さらには遺伝性のものまで、その原因は多岐にわたります。また、時には重篤化して輸血が必要になるなど、命の危険を伴うこともある気の抜けない病気なのです。ここでは、犬の貧血をもたらす疾患とその原因、診断、治療法について解説します。

「貧血」とはなにか

血が貧しいと書いて貧血。読んで字のごとく、貧血とは血液が少ない状態であるという理解をされている方が多いかもしれませんが、実際は、赤血球の数や濃度が低下している状態を指します。つまり、血液が少ないのではなく、血液内に必要な要素が不足していたり薄くなっている状態である、という認識が正しいです。

貧血のしくみ −赤血球とヘモグロビン−

赤血球には、肺で取り込んだ酸素を、血管内を流れて全身に運搬するというはたらきがあります。その際、酸素と結合しなければならないのですが、その役割を担っているのが赤血球の主要な成分であるヘモグロビンです。
ヘモグロビンは、鉄とタンパク質からなっています。貧血のときに鉄分を採ると良いと言われるのは、このためです。鉄分が不足すると、ヘモグロビン濃度が低下し、赤血球が脆くなります。赤血球の数が減ると、酸素の運搬のはたらきが不十分になり、身体が酸欠状態におちいります。これが貧血のしくみです。

女性と貧血の関係

人間では貧血は女性に多く、一般的な症状として めまい、立ちくらみ、疲れやすい、頭痛、イライラする、顔色が悪いなどが挙げられます。
女性に貧血が多く見られる理由のひとつは、生理による出血です。出血すると、大切な赤血球、鉄分が血液と共に失われてしまいます。もう一つの原因は、ダイエットによる栄養不足があげられます。特にヘモグロビンの材料となるタンパク質や鉄分が不足すると、貧血を引き起こします。
目立った症状がない人もふくめると、日本人女性の65%が貧血であるというデータもあり、人間にとって貧血はとても身近な疾患だと言えます。

犬の貧血と一般的な症状

犬も人間同様に貧血を起こします。やはり、赤血球、ヘモグロビン、鉄分が不足していると、酸素の運搬能力が低下し、貧血を起こします。人間と同じく、極端な食事制限による栄養不良や、生理をふくめ、出血があるときは貧血をおこしやすくなります。人間にないものとしては、ノミを始めとした寄生虫や感染症、貧血を引き起こす原因になる成分を含むものをうっかり食べてしったことによるものが挙げられます。
貧血が起こり、酸欠状態になると、粘膜蒼白(口腔内など)、疲れやすくなる、呼吸が速くなる、元気が消失するなどの症状がみられます。

犬の貧血の原因と分類

赤血球は、からだの中で絶えず作られ、壊されています。赤血球が生産されている場所は、骨髄です。その一方、老化した赤血球は脾臓、肝臓、骨髄などで破壊されます。このバランスが崩れ、赤血球の数が不足すると貧血が起きます。この過程のなかで、どこに異常があるかによって、大きく3種類に分けて考えることが出来ます。

(1)赤血球が正常に産生されているが、赤血球の寿命が短くなりすぎている場合。(溶血性)
(2)赤血球の産生、寿命ともに異常はないが、身体の外へ出ていっている場合。(出血性)
(3)赤血球の産生が減少し、赤血球の破壊を上回る場合。
これらのうち、1,2を再生性貧血、3を非再生性貧血と呼び、分類されます。

貧血をともなう犬の代表的な疾患

犬に貧血をもたらす疾患やその原因について、紹介します。

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

■原因:
からだの免疫反応によって、赤血球が破壊されて起こる貧血です。血管内や脾臓、肝臓、骨髄内で破壊されます。
この疾患には好発犬種があります。マルチーズ、シーズー、プードル、コッカースパニエル、アイリッシュセッター、オールドイングリッシュシープドッグなどが報告されています。また、オスよりもメス、特に避妊手術を受けていない犬での発症が多い傾向があります。
■症状:
一般的な貧血の症状に加え、発熱、血尿、黄疸などがみられる場合があります。
■診断・治療:
顕微鏡での赤血球の形態評価(丸い球状の赤血球など)に加え、免疫反応の検査を行います。
この疾患は、血栓や血液凝固異常を引き起こし、死にいたることもある恐ろしい疾患です。重篤な場合、致死率は80%近くあるとまで言われています。
治療法は、免疫を抑制するためにステロイドや免疫抑制剤を投与します。また、血栓予防の薬剤を投与します。
貧血が著しい場合は、赤血球を補うために輸血をしたいところですが、この疾患の場合は輸血による副反応が起こる可能性が高いため、なるべくしないようにします。症状が緩和したのちは、ステロイドや免疫抑制剤を少しずつ減らしながら継続投与します。
■治療費
救急の重篤な状態であれば、輸血、酸素室、救急対応などの処置が加わるため、一概には言えません。初期治療だけで10万円を超えることもあります。
軽度の場合は、ステロイドや免疫抑制剤、血栓予防などの薬の分だけ費用がかかります。体重にもよりますが、ステロイドは比較的安価で、1回量は50~200円ほどです。免疫抑制剤や血栓予防の薬は高価な薬があるので、1日に1000円~3000円ほどかかることもあります。
治療反応がよく、安定していれば、半年ほどかけてゆっくりゆっくり投与量を減らしていきます。再発があれば、また初期治療から開始します。

ハインツ小体性溶血性貧血(タマネギ中毒)

■原因:
小難しい名称ですが、有名なタマネギ中毒による貧血です。ネギ科の植物をはじめ、赤血球に酸化障害をおよぼす物質を摂取することで発症します。このとき、赤血球がハインツ小体という構造を形成するため、この名称で呼ばれます。ハインツ小体を形成した赤血球は、物理的、化学的、免疫学的にも破壊されやすくなります。
■症状:
一般的な貧血症状に加え、血尿がみられる場合があります。
■診断・治療:
診断は、原因物質の摂取の有無と、顕微鏡によるハインツ小体の検出でなされます。
治療法は、抗酸化剤の投与や点滴による有害物質の排泄の促進、重症例では輸血が必要になることもあります。
注意点としては、原因物質の摂取量が少なくても重症化することがある点、原因物質の摂取から貧血が起きるまで数日かかることがあるという点です。原因物質を摂取したけど元気だからといって油断してはいけません。早めに動物病院で診察を受けてください。
■治療費
輸血が必要なくらい重症であれば、費用は10万円を超えるかもしれません。
軽度であれば、点滴通院で一回3000~5000円、抗酸化剤などの投与を数日間で1000~2000円ほどかかるでしょう。

犬バベシア症

■原因:
バベシアという原虫に感染することによって起こる疾患です。原虫というと、虫を連想してしまうかもしれませんが、実際は赤血球の中に寄生するほど小さな生物です。マダニの吸血によって感染します。
この疾患は、地域による発症率の差が大きいという特徴があります。西日本を中心に暖かい地域での発症が多いですが、青森や北海道でも発生しています。闘犬での発症が多く、闘犬の長距離移動が感染を拡大させたのではという報告もあります。
■症状:
一般的な貧血の症状に加え、発熱、血尿などが認められます。
■診断・治療:
診顕微鏡で赤血球のバベシア寄生の確認、もしくは遺伝子検査などを用います。
治療法は、駆虫薬、抗生剤を用います。
予後としては、バベシア症は高確率で再発します。その割合は3割を超えるとも言われています。また重症化すると、腎臓病などを併発し、命を落とすこともあります。
バベシア症の感染は、マダニを媒介して成立します。ただし、マダニに一回咬まれてすぐに感染するわけではなく、感染が成立するには2〜3日のマダニの寄生が必要と言われています。したがって、マダニの予防をしっかりとすれば、バベシア症の予防ができます。ここで注意すべき点は、予防薬にはノミやミミダニの感染は予防できるが、マダニの予防はできないというものがあるという点です。予防薬を処方してもらう、購入するときは、この点の確認をするようにしましょう。
■治療費
重症化すれば、輸血もふくめ、救急対応処置で10万円以上かかることもあります。
軽症であれば、1日100~300円ほどの抗生剤や駆虫薬の費用がかかります。ただし、治療期間が数ヶ月以上に及ぶことが多く、また、再発することも多いため、生涯の治療を検討します。

再生不良性貧血

■原因:
赤血球のほか、血小板や白血球の減少もみられることがある貧血です。これらのものを生産している骨髄に問題が起きると発症します。原因不明なこともありますが、感染(パルボウイルス、エールリヒア)、エストロジェン中毒(精巣腫瘍)、薬剤(クロラムフェニコール、抗がん剤など)、腎臓病などが原因となることもあります。
■症状:
一般的な貧血症状に加え、血小板減少による出血傾向(出血斑、紫斑)、白血球減少による発熱なども認められます。
■診断・治療:
原因疾患があればその治療、免疫が関わっている場合は、免疫抑制剤を投与します。
治療反応が悪いことも多く、予後不良の疾患です。
■治療費
重症化すれば、輸血もふくめ、救急対応処置で10万円以上かかることもあります。

鉄欠乏性貧血

■原因:
ヘムの材料である鉄が不足することにより起こる貧血です。原因として、慢性失血、鉄分摂取不足などがあげられます。ただし、人間に比べると、鉄分の摂取不足が起こることは稀です。
慢性失血には、出血の部位から、消化管、泌尿器、生殖器、腫瘍などに分けられます。なかでも、胃潰瘍、消化器腫瘍、膀胱腫瘍などがよく見かけられます。
■症状:
併発している疾患にもよりますが、一般的な貧血症状が認められます。
■診断・治療:
臨床症状に加え、顕微鏡による赤血球の形態評価、血清鉄、血液中の鉄と結合するトランスフェリンの数値などで判断されます。
治療は、鉄分の補充に加え、多くの場合原因となっている別の疾患があるので、その疾患の治療が必要となります。
■治療費
鉄分補給のための薬剤は、比較的安価で、1日100~200円ほどです。しかし、原因疾患により、治療費は大きく変わります。腫瘍であれば、手術、抗がん剤、輸血など、数十〜数百万円になることもあります。

慢性疾患に伴う貧血

■原因:
慢性の炎症、感染症もしくは腫瘍があるときに起こる貧血です。この場合、炎症によって放出される物質(サイトカイン)により、鉄の輸送障害がおこること、赤血球を生成するときに必要なエリスロポエチンの反応が低下することが原因であると考えられています。
■症状:
一般的な貧血症状に加え、慢性の疾患による症状が加わります。
■診断・治療:
臨床症状に加え、血清鉄、トランスフェリンの数値で判断されます。血清鉄が低下する疾患は、慢性疾患に伴う貧血と鉄欠乏性貧血だけなので、絞り込むことができます。
治療は、基礎疾患の治療が大切です。また、血清鉄が少なかった場合でも、からだのなかにストックされている貯蔵鉄の量は正常であるため、鉄製剤による治療は奏効しません。先述したエリスロポエチンを投与すると、貧血が改善することがあります。
■治療費
基礎疾患により、治療費は大きく左右されます。
エリスロポエチンは高価な薬剤です。一回3000~10000円ほどかかります。

高エストロジェン症による貧血

■原因:
エストロジェンとは、俗に女性ホルモンと呼ばれるホルモンです。卵巣、胎盤、副腎皮質、精巣などで生成されます。
高エストロジェン症になる原因は、外因性(尿失禁に対するエストロジェン製剤の投与)と内因性(卵巣嚢腫、精巣腫瘍)とに分けられます。精巣腫瘍は特に犬での発生が多く、その原因として、犬では潜在精巣が多いことがあげられます。
潜在精巣とは、精巣が陰嚢の中に降りてなく、下腹部の皮下や腹腔内に存在している状態です。この場合、精巣は腫瘍化しやすくなります。
ヨークシャー・テリア、ポメラニアン、トイ・プードルなどが潜在精巣の好発犬種としてあげられます。その他、シェットランド・シープドッグも精巣の腫瘍の発生率が高いというデータがあります。
■症状:
腹部を中心とした左右対称性の脱毛、皮膚がベタベタする脂漏症、皮膚が黒くなる色素沈着、そして骨髄抑制による貧血、白血球減少、血小板減少などの血液障害が起こります。
■診断・治療:
エストロジェン製剤の投与歴の有無、潜在精巣の有無、避妊後の卵巣遺残がないかなどの評価、血中エストロジェン値の測定などでなされます。
治療は、エストロジェン製剤投与の中止、異常な精巣、卵巣の摘出を行います。ただし、重篤な骨髄抑制がすでに起こっている場合は、治療が奏効せず、予後不良となります。その場合は、対症療法として貧血に対する輸血、感染に対する抗生剤、血栓症に対する血液凝固防止剤によって治療します。
この疾患は、避妊、去勢によってある程度の予防ができる疾患です。
■治療費
輸血、手術などが必要になれば、費用は数十万円になることもあります。

貧血の予防と早期発見の重要性

以上、犬の代表的な貧血疾患を紹介してきました。ここまで述べてきた通り、貧血は粘膜蒼白(口腔内など)、疲れやすくなる、呼吸が速くなる、元気が消失する、左右対称性の脱毛、鼻出血や血尿などの慢性出血、発熱など、さまざまな症状を引き起こします。また、疾患によっても、その症状は異なります。
ここで押さえておくべきことは、病態によっては貧血を予防することが可能であるという点です。避妊、去勢手術による高エストロジェン血症の予防や、タマネギやネギなどの成分の摂取を防ぐことによるハインツ小体性貧血の予防などがそうです。
また、早期発見によって貧血疾患の重症化を防ぐことができますので、普段から丁寧に観察するよう心がけましょう。

まとめ

貧血は人間にとってとても身近な症状のため、軽視されることも多い不調です。しかし、犬の貧血を伴う疾患について知った今は、命を落とす危険を伴う重大な疾患であることがお分かりいただけたかと思います。
たかが貧血、されど貧血。些細な変化でも見逃さず、気になることがあれば動物病院で相談するようにしましょう。

監修/滝田雄磨(SHIBUYAフレンズ動物病院 院長)
※下線にリンクhttp://www.sjd.co.jp/hospital/

<テキスト>
※治療費はあくまで目安ですので、動物病院にお問い合わせください。

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