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映画『ストレイ』を観て考える、犬の幸せとは何か【穴澤賢の犬のはなし】

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先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

先日『ストレイ 犬が見た世界』という映画を観て来た。トルコでは2004年から犬の殺処分はゼロで、10万頭にもなるのら犬と人間が共存しているという。映画はそんなイスタンブールの犬たちの暮らしを、ずっと犬と同じ視点のローアングルで撮影し、ナレーションも一切ない。ドキュメンタリーでこれといったストーリーもないが、主に「ゼイティン」と「ナザール」という大きめの犬に焦点を当て、彼らの暮らしぶりを追っている。

街で暮らす犬たちの日常

特に飼い主のいない彼らは、街で暮らしているが決まった寝床はなく、いくつかの場所を転々としている。驚いたのは、慌ただしく人が行き交うところを犬が歩いていても、路上で昼寝していても、誰も怖がったり、追い払ったりしないことだった。そればかりか「よぉ」という感じでちょいとなでたりする人もいれば、犬同士でけんかしていると割って入って仲裁したりもする。犬も人に対してはまったく攻撃的な態度は見せない。街に犬がいるのが当たり前で、共存している。

それはトルコがイスラム教の国で「犬は不浄」とされていることが大きいのかもしれないが、以前は野犬の捕獲駆除もしていた。それが今では殺処分はゼロで共存しているというのはすごいことだと感じた。行政でものら犬をできる限り去勢・不妊手術をするようにして、フードも与える取り組みをしているらしい。だからやせ細っているわけでもない。犬も、自分で考え、自由に行動している。

そんな光景に感動したかというと、実はそうでもない。映画がくだらないというわけではない。人と犬たちがなんとなく共存しているのはよいことだと思うし、そういう社会があることを知れたのでよかった。

犬たちは幸せなのか?

けれど犬たちはそれで幸せなのか? それが理想なのか? と考えるとちょっと違うように感じた。というのは、犬たちの顔が幸せそうには見えなかったからだ。かといって不幸のどん底みたいな顔をしているわけではいし、たくましい目をしているのだが、どこかに寂しさが見え隠れするのだ。自由を謳歌しているようには見えない。少なくとも、満ち足りてはいない。

街で昼寝していても、たまに誰かのそばにいても、そこが自分の居場所ではないことを知っていて、心から落ち着けるところがないようだった。犬はもはや野生ではなく、特定の人間のパートナーとして生きていくことでしか、喜びを感じないようになってしまったのではないか。自由に暮らしているはずの犬たちを観ながら、そんなことを思っていた。

だからといって、犬を擬人化して過保護に育てるのがよいと言いたいわけではない。人間(飼い主)と犬との間に信頼関係があり、お互いに尊重し合いながら、一緒に生きていくことが幸せなのではないだろうか。といっても、何が幸せかなんて人によって違うから一概には言えないが、私はそう思っている(犬と共に生きていくことに喜びを感じるようになってしまったから)。『ストレイ』はそんなことを改めて考えるいい機会になるから、犬好きな人は観てみることをお勧めする。

犬の視点で見ると、人間の社会がいかに騒がしく雑多かよく分かるし、それなのに人間を嫌わず寄り添おうとする姿に感慨深いものがあった。なんて健気なんだ。

補足だが、映画では車がバンバン通っている道を犬が渡ったりするが、その度に「危ない!」と心の中で叫びながらヒヤヒヤすると思う。そういう意味で、心臓に悪かった。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。

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