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かけがえのない11年【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

今年も8月17日に大吉が誕生日を迎え、11才になった。少し前からおもちゃを食いちぎって破壊しなくなった、何も怯えていないのに足がたまに小さくブルブル震えるとか、多少の変化はあるが、まだまだ早く走れるし、動きにバネがあるし、体力的には衰えを感じない。白内障の兆しもないし、定期的に受けている健康診断や血液生化学検査でも異常はない。それがすごくうれしい。

健康でいることのうれしさ

しかし、犬は11才を過ぎたあたりからガタガタっと来るよという話を聞くし、確実に老いは迫ってきているが、それはそれでいい。老犬との暮らしは経験したことがないから、未知の領域で楽しみでもある。とにかく、できるだけ自分の足で歩いて、ちゃんと食べてくれればそれでいい。
大吉を迎えた11年前は、私は40歳だったことになる。もう51歳になったのに、あのころから人間的にもいろいろな意味で成長していないなと思う。ただ、この11年で腰越(鎌倉市)に引っ越したり、山の家を手に入れたり、さまざまな環境の変化があったが、それらすべては大吉(と福助)のことを中心に考えてのことだ。良い悪いは別にして、彼らがいなければこうはなっていなかったと断言できる。
オッサンになったせいなのか、階段から落ちて死にかけたせいなのかは分からないが、最近自分の死について意識するようになった。そう遠くないうちに死ぬんだろうなと思う。若い頃はそんなこと考えなかった。かといって、別に死ぬのが怖いとか長生きしたいとも思わない。悲観的になっているわけではなく、そうなんだろうなと受け入れている。
そう考えるとき、私は今、かけがえのない時間を過ごしているだろうなと思う。それは自分についてではなく、大吉と福助と一緒の時間を過ごしている、という意味で。
私はそっけなく醒めた性分なので、普段は誰かに対して「かけがえのない」なんて言葉は使わないし、思っていたとしてもそんな気持ちはいずれ変わるかもしれないと常に頭のどこかで疑っている。けれど、大吉と福助に対しては、かけがえのない存在であり、それがずっと一生変わることはないと言い切れる。

将来を見据えた思い

なるべく考えたくはないが、大吉と福助だって寿命がある。いずれいなくなってしまっても、彼らと過ごした時間を忘れることはないだろう。大吉と福助だけではない。かつて30代を共に過ごした富士丸に対しても、かけがえのない時間だったと今でも思っている。
これはたぶん、犬や猫と暮らす人なら抱いている感覚なのではないかと思う。私は富士丸との突然の別れを経験したから、余計にそう感じるのかもしれない。
さっきと矛盾しているが、死ぬのは怖くないけど彼らが生きているうちは死ねないなと思う。というか、健康でないといけないと思っている。そしていつか悲しみや喪失感を味わいながら、今の暮らしを振り返り、かけがえのない時間だったと思うのだろう。
そんなことを心の奥で常に思っている。だから、毎日散歩に行く前に伸びをしている姿を見ても、暇そうにあくびをしている姿を見ても、脱力してベッドでダラダラしている姿を見ても、どこか少しだけホッとする。あと何年続くのか分からないが、11才になった大吉に「そんなに早く年を取らなくていいのに」と思う。そんな気持ちは知らないだろうし、知らなくていいけど、少しでも長く元気でいてくれることを願うばかりだ。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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