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逆に犬に教えられる【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

大吉が11才を迎えたということは、約2才半違いの福助も8才になったことになる。この約8年間、両者は衝突したことがない。初めて福助がわが家にやって来たとき、いきなり大吉が襲いかかり、ビビリまくった子犬福助がキャンキャン泣きながらウンチを漏らす事件はあったが、あれは大吉なりの通過儀礼的なものだったのかもしれない。

けんかなし。仲の良い2頭

それ以降はとても仲がいい。その一件があっても、福助は人間より先に大吉にいち早く心を開き、いつも後ろを付いて歩き、だんだん調子に乗ってくると闘いを挑んでは大吉が手加減して応戦するような関係になる。そんな感じで、今でもちょいちょいバトルはしているが、それはあくまでも「遊び」の範囲で、本気のけんかに発展したことは1度もない。
これはよく考えてみると、すごいことだ。自分に置き換えてみると、兄弟げんかなんて当たり前だったし、いくら仲のいい友人でもちょっと険悪になったこともあるし、夫婦関係にいたってはムカついて2、3日、口も聞かないなんてこともある。
自分の中で決定的に「もう無理だな」と思ったらそこで関係が切れるからそれはそれで仕方ないが、そこまでではなくてもときにはちょっとくらい衝突したり、がまんしたりは誰だってあるのではないだろうか、と思う。それが溜まり溜まって「ええ加減にせいよお前!」とたまに爆発したり。友人など、たまに会う程度ならいいが、ひとつ屋根の下で四六時中一緒に暮らすと尚更である。
ときには、特に理由もないのにイライラしたり、急に人と関わるのが面倒くさくなったり、1人にさせてくれ、と思ったり。20代の頃は、そんな気持ちは歳をとったらなくなって達観するんだろうなとぼんやり思っていたのに、50歳を越えてもなくならない。多少は丸くなったと自負しているが、それはなるべく周囲に悟られない術を覚えただけかもしれない。

寛容な大吉の偉さ

そういう意味で、大吉は偉いなと思う。どちらも食に執着心がないから食べ物の奪い合いこそしないが、オモチャなど2個与えると、必ず福助が両方自分の物にしようとする。大吉がくわえたぬいぐるみを奪い取り、仕方なく大吉が空いた方のぬいぐるみを拾うと「そっちもオレのだ!」と奪う。恐るべき独占欲の強さと根性の悪さである。
それでも大吉は怒らない。そして、福助が両方気の済むまでガジガジすると、余った方が大吉に回る。大吉はそれでいいらしい。
また、福助はときどき大吉の不意をついて襲いかかる。本気でやれば未だに大吉の方が強いはずだが、そんなときも軽くかわして、ほどよく応戦している。
私だったら「ええ加減にせいよお前!」レベルである。それでも大吉は怒らない。なんという懐の深さ。なんて人間(犬)ができているのだろう。
といいつつ、福助も本気ではない。ちゃんと手を抜いている。ようするに大吉にかまってもらいたいのだ。大吉も、それに付き合いつつ、福助のことが愛おしくて仕方ないらしい。そして、仲良く一緒に昼寝している。そんな関係が、8年も続いている。大吉と福助を見ていると、私も見習わないとな、思う。今更だけど。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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