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犬の思いやり【穴澤賢の犬のはなし】
犬の思いやり
子犬のころからいっしょに暮らしていると、最初はひたすら自分の欲求に素直だった犬が、いつのころからか少し控えめになり、なんだかこちらを気遣うようなそぶりを見せることに気がついたりする。わが家の歴代ワンコの場合もそうだった。
少し前から、福助が仕事中にちょっかいを出してくるようになった。しかも決まって15時を過ぎたころに。仕事で机に向かっていると、福助が立ち上がって後ろから何やら要求してくる。で、振り向くと腕を甘がみされる。たぶん「そろそろ散歩へ行こうよ」というアピールだろうが、まだ少し早い。なので「もうちょっと待ってろって」と言いながら軽くいなしたりする。
実は、大吉も昔はまったく同じことをしていた。それが今では、そんな福助をクールな表情で眺めている。いつのころからか、散歩の催促はしてこなくなった。催促しようがしまいが、そのうち必ず行くとわかっているようだ。たとえば仕事が立て込んでいたりして、いつも散歩に行く時間がうっかり過ぎていても、大吉は黙って待っている。その目には「なんだか大変そうだね」という労いの色すら感じることがある。
思えば富士丸もそうだった。富士丸が亡くなってから、一度元気なラブラドールを散歩させてもらったことがあるのだが、恐ろしいほどの力で引っ張るので驚いたものだ。そのときになって「あぁ、あいつはかなり加減してくれていたんだ」と気がついた。富士丸も3才ころまでは「犬ぞりか!」というほどぐいぐいリードを引っ張っていたが、いつの間にかこちらの歩調に合わせるようにゆっくりと歩くようになっていた。
若いころは常に「オレがオレが」だった犬が、やがて主張するだけではなくなっていく。もちろん肉体的に老化していくのもあるかもしれないが、それだけではないような気がする。その証拠に、大吉はまだ4才にもなっていない。そう考えると、犬も人と暮らしていくうちに相手のことを思いやる心が芽生えてくるのではないかと思う。
なぜなら、たとえば大吉は子犬のころ、ソファに寝ころんでいる人のお腹に飛び乗ってくることがあった。中型犬とはいえ、突然飛び乗られると「グエッ!」となる。でも悪気はないし、そんなこと注意しても犬がわかるわけがないと思うので叱ったりしないが、いつの間にかしなくなったのだ。それはやはり、大吉も「なんか痛そうにしているし、悪いなぁ」と感じたのではないだろうか。
同じように、わが家を訪ねてきた女性編集者が「大吉くんは私を避けて歩いてくれるのに、福ちゃんは私の膝を平気で踏んづけていく」と言っていたことがあった。「噛む」という行為なら、本能的に本気でやれば相手を傷つけることはわかるような気がするが、踏んづけたり飛び乗ったりするのを避けたり、ましてや飼い主が大変そうだとか、そういうことを察するようになるのはどういうわけだろう。
こうした犬の思いやりともとれる行動について、ちょっと嬉しいと感じる反面、そんな気遣いなんてしなくていいのに思うこともある。何も遠慮なんてしなくていい、お前はお前の好きなようにしていればいいんだ。近ごろの大吉を見ていると、本当にそう思う。かといって、13キロくらいあるのに思いきりお腹に飛び乗ってくる現在の福助はどうかと思うが。
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