人が犬と出会うとき、きっとなにか縁のようなものを感じることがあると思います。理由はわからないけれど、そのコに強く惹かれてしまうーー犬を飼おうか迷ってしまうとき、その気持ちを大事にしてほしい。
高橋さんご家族のもとにやって来た、新しい家族の次郎ちゃん。偶然なのか、運命だったのか。出会いは突然、訪れたのでした。
先代犬との別れ
2018年の2月に、先代犬のモコちゃんを14才で亡くした高橋さん。モコちゃんとお別れし、モコちゃんの存在の大きさを改めて感じていました。
悲しみもあるけれど、モコちゃんと歩んできた日々の中で、犬と暮らすことの素晴らしさを知ることができた。それは、モコちゃんが残してくれたかけがえのないもの。
モコちゃんが天国へ旅立ってから2週間ほど経ったころ、高橋さんはふと里親募集サイトを覗いてみることに。モコちゃんと暮らしているときから、もし次に犬を飼うときは保護犬のコを迎えようと考えていたのでした。
里親募集で気になるコを発見 でも、問題が……
それからも、高橋さんは里親募集サイトを何度か訪れるのですが、そのなかで高橋さんは1匹の犬に目が止まります。
先代犬のモコちゃんと犬種は違うけれど、怯えている目がビビリ屋さんだったモコちゃんにそっくりだったという、野犬の子犬。それが、次郎ちゃんでした。
「この子犬に会ってみたい」
しかし、大きな問題がありました。高橋さんは神奈川県在住なのですが、次郎ちゃんがいる保護施設は、香川県。募集エリア対象外だったのです。
それでも、高橋さんは次郎ちゃんの様子を毎日チェック。ほかの人が問い合わせをしている状況でも、対象エリア外でも、どうしても次郎ちゃんのことが気になってしまう。
そのことを、高橋さんはご家族に話します。すると、驚くことが起こるのでした。
高橋さんの娘さんも、次郎ちゃんのことが気になっていた
「チェックし始めて1週間が経過したころでした。家族に、香川の気になる子犬がいることを話したところ、まさかまさか……我が家の娘(24歳)もまったく同じ子犬が気になって、毎日チェックしていたようで。
娘も募集エリアが対象外だとわかっていても、『香川に迎えに行こう! 我が家が香川に引っ越して、家族に迎えよう!』『本当に募集に申し込もうよ!』と」
家族で同じコに惹かれていたのは、偶然だったのかーーきっと、高橋さんにとって意味を感じてしまう出来事だったはずです。
家族の強い思いが奇跡を起こす
意を決して、香川の保護施設に問い合わせをしてみた高橋さん。半ば諦めムードだったけれど、電話で話を聞いてもらえることになり、次郎ちゃんへの思いを担当者に話します。
「関東にもたくさんの里親募集の子犬がいるけれど、なぜ遠く離れた地にいるこの子犬なのか。家族構成、家庭環境など、20分くらい話をしました」
高橋さんの強い気持ちが、施設の担当者にも伝わったのでしょう。なんと、次郎ちゃんを迎えることが決定したのです。
募集対象エリア外で、里親希望者がほかにもいた状況のなか、無理だと思って諦めないでよかった!
人への警戒心が強い次郎ちゃんのために、飼い主さんが心がけたこと
実際に次郎ちゃんに会ったときの印象は、想像どおりのビビリちゃん。保護施設にお迎えに行ったとき、ケージの隅っこで怯えた目で見てきたそうです。
ケージから出されるときに、オシッコを漏らしてしまうほど。
「保護犬にも、飼育放棄・飼育困難で手放されるコと、野犬が保護施設に収容されるケースがあると思いますが、次郎ちゃんは野犬の子犬(5匹兄弟姉妹)で生後2カ月程度で収容されていました。
赤ちゃんとはいえ、もともと人との関わりがない環境で過ごしていたので、わたしたちの想像以上に警戒心が強く、人間環境のあらゆる物、音、動きにとても怖がりました」
たとえば、家の中では水道を出す音やレンジの音、扉の開閉、鈴の音など。外では、抱っこしている飼い主さんの足音や、遠くに聞こえる車の音、公園で遊ぶ子どもの声……次郎ちゃんにとっては、きっと初めてのことばかり。
そんな次郎ちゃんとの距離を縮めるために、高橋さんは毎日少しずつ次郎ちゃんの体に触れてみます。外の世界に慣れさせるために、抱っこして街を見させたりもしました。
毎日続けると、徐々に次郎ちゃんは人との生活環境にも慣れてきたそうです。
「訓練は進行形ですが、いまでは横浜の人がメチャクチャ多い人気スポットの山下公園、赤レンガ倉庫あたりも、なんとか歩けるようになってきました」
次郎ちゃん、すごい成長ぶりです!
次郎ちゃんへ、飼い主さんが伝えたいこと
突然だったけれど、次郎ちゃんと運命的な出会いをした高橋さん。これから人生をともにする次郎ちゃんに、伝えたいことを聞いてみました。
「君と出会えて本当に良かった。君と家族になれてとても幸せ。我が家にやって来てくれて、先代犬とのお別れから立ち直らせてくれてありがとう。
君と一緒に過ごせる時間は無限じゃないけれど、君が旅立つとき、我が家の家族の一員になって良かったと思える犬生を過ごさせてあげるからね」
大切な家族との別れで、ペットロスに陥ってしまう飼い主さんも少なくありません。高橋さんご家族は、次郎ちゃんの存在によって救われたのです。
いつか別れがあると知りながらも、また犬を飼おうと決断できたのは、これまで先代犬モコちゃんと素晴らしい日々を過ごせたからなのだと思います。
きっと次郎ちゃんとのこれからも、楽しい日々になるはず!
「保護犬」という壁を作らず、そのコ自身を見てあげてほしい
次郎ちゃんを迎える前まで、高橋さんの保護犬へのイメージは、とてもデリケートでなかなか心を開いてくれないと思っていたそう。
しかし、次郎ちゃんはまだ生後3カ月で家に来たことも影響しているのか順応性が高く、家族の一員になるのにもそう時間はかからなかったといいます。
もちろん、保護犬のコもそれぞれ置かれていた環境や性格も違いますが、わたしたちが保護犬という「壁」を意識しすぎずに、「そのコ自身を見てあげる」ことが大切なのだと思います。
先代犬のモコちゃん、保護犬の次郎ちゃんと家族になって、高橋さんは「犬は人を裏切らない」と感じたそうです。これは、きっといま犬を飼っている人ならばわかるはず。
でも悲しいことに、保護犬になってしまったコのなかには、人の裏切りによって居場所をなくしたコもいます。
そうしたコたちにも、彼らのことを大事に思ってくれる新しい飼い主との出会いがあると願ってやみません。
犬を飼おうと思うとき、人のぬくもりを必要としている保護犬がいることを思い出してみてください。気になった方はぜひ保護施設に足を運んでみてはいかがでしょうか。
参照/Instagram(
@hit1104s)
取材・文/凜香