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「しつけ」に必死になっても仕方ない【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

初めて犬と暮らして「なぜ言うことを聞いてくれないんだろう」と悩んでいる人もいるかもしれない。特に幼い犬に多いが、ゴハンも散歩も遊ぶのも、できるだけのことはやっているつもりなのに、目を離すといたずらをする。あれだけダメって言っているのに。

なぜ言うことを聞いてくれないのかと悩む犬との暮らし

そこでしつけ本やネットで、犬のしつけにまつわる情報を読み漁る。あれこれ試してみるが、どれもダメ。しかって反省顔になっても、すぐにまた同じことを繰り返す。
ときにはクッションを食い破ったり、家具や柱をかじったり、布団におしっこをしたり、決まって「それは止めて!」ということをやる。何が不満なの? どうしてほしいわけ? 私の何がいけないの? と思い悩む。
その疑問に対する答えは、2つ。あなたは何も悪くない。そして、犬も悪くない。じゃあなぜいたずらやそそうをするのか。それは、若くて幼いからだ。
考えてみてほしい。犬はそもそも人間社会で暮らす動物ではない。だから決まった場所で用を足す習慣はない。破壊していいおもちゃと、そうでないものの区別もつかない。好きなところを歩きたいだけなのに、なぜリードをぐいぐい引っ張ったらしかられるのか分からない。
それらを覚えてもらうのに2、3年かかるのだ。だいたいそれくらいしたら犬も「あぁそういうものなのね」と理解してくれるようになるだけの話で、1回言っただけで覚えられるわけがない。むしろ数年でよくそこまで理解して生活様式を合わせてくれるものだと思う。
だからしかるくらいなら、犬が噛んだら危険なものや(コンセントや延長コードなど)、間違って飲み込んだらまずいもの(洗剤など)を、触れないようガードするなり、手の届かないところへ避けるなりしたほうがいい。
やんちゃ坊主なのも若さゆえであり、どんな犬でも必ずそのうち落ち着く。このあたりは自分のことを振り返ってみると分かるはずだ。ガミガミうるさい親がうっとうしく感じた経験は誰しもあるだろう。ときには反抗的になったり、無視したりするが、その点では犬のほうがずいぶん素直である。

経験を重ねて歩み寄る

また、初めて犬と暮らす場合、犬は人間の左側を少し下がって歩かせるとか、そんなたぐいのことも「しつけ」と勘違いしている人がいるが、自分がそんなこと強要されるとどう思うか考えた方がいい。犬もあちこちニオイをかぎたいし、若いうちがグイグイ行きたいものである。それも、3才から5才くらいになれば落ち着くし、逆にこちらを気遣うペースで歩いてくれるようになる。
だから、私は大吉と福助に「しつけ」はほとんどしていない(大吉はなぜかいたずらはほとんどしなかった)。これは覚えておいて、とお願いしたのは2つだけだ。1つは「本気で噛まないこと」、もうひとつはたとえリードを落としたとしても「マッテ」と言えば動きを止めてくれること。それさえ分かってくれれば、あとは好きにさせている。
そういう私も、かつては思い悩んだタイプである。先代犬の富士丸はハスキーとコリーのミックスだったので体重は30キロほどあった。散歩では「犬ぞりか!」というくらいグイグイ引っ張ったし、ちょっと留守にするとクッションやトイレシートをぐちゃぐちゃに食い破っていた。ひどいのは、一人暮らし時代から愛用していたソファーベッドも見事に破壊してくれた。
そんなとき「こいつはばか犬なのか?」と真剣に悩んだが、後になってばかなのは私だったと気が付いた。生きていくためとはいえ留守番は長かったし、散歩は欠かさず行っていたが幼い大型犬には運動量が足りていなかったのだろう。唯一、主張できることが破壊活動だったのだ。
そんな富士丸も3才を過ぎた頃から落ち着き、犬と飼い主というよりは1DKのマンションで同居人のように暮らしていた。彼が幼かった頃に私が間違っていたことは認め、それからは心を改めて犬に接するようになった。そういう意味では私の方が逆に「しつけ」られたと言っていい。
そんな経験から福助が幼い頃、あれこれ破壊しても「はいはい、好きにすればいいさ」と余裕をかましていたら、留守番の間に3人がけソファーとシングルソファー2つを破壊されているのを目にしたときは「えぇぇぇぇー!」となった。体重は富士丸より全然軽いくせに破壊王っぷりは富士丸を超えたのである。そんな福助も、今では何の手もかからない立派な家族の一員である。
だから今悩んでいる人は、そういうものだとあきらめたほうがいい。そのうち、犬のほうが正しかったと気が付く日が来るはずだから。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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