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「山でのんびり暮らす」は幻想【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

これまで連載で何度も書いているので、ずっと読んでくださっている方は知っていると思うが、山に移住してものんびりしている暇などない。むしろ、都会で暮らしていたときより肉体労働が増える。私の場合、鎌倉と八ヶ岳の2拠点生活から、山に完全移住してさらに増えた。具体的に私のケースを紹介しよう。

毎日が草刈りに追われる

まず大前提として、山で暮らすと春から秋にかけて草刈りは必須である。場所によって種類は多少異なるが、雑草は必ず生えてくる。特にタンポポとクマザサは手強い。
「え? タンポポが咲いてるなんてかわいいじゃん」と思うかもしれない。実際、私も最初はタンポポくらいいいかと思って放置していた。すると、どんどん増殖して敷地がタンポポだらけになってしまったことがある。
クラピアのようにグランドカバーになってくれればいいが、タンポポは上に成長するし、隙間だらけだからならない。だから刈るしかないが、草刈り機で刈った程度ではすぐに復活する。根ごと引っこ抜かないといけないのだ。
それを実践してみるが、1度増えたタンポポはあらゆるところに生えているので、根絶やしにするのが難しい。それでも、見つけては抜いて見つけては抜いてを繰り返して今にいたる。タンポポはほぼなくなったが、それで隙を見て生えてくるし、未だにそういうのを見つけたら抜く。
さらにやっかいなのが、クマザサである。クマザサは地下茎で繋がっているので、草刈り機で刈ってもほぼ意味がない。彼らにとっては散髪したくらいのものだ。だからこれも根から引っこ抜くしかないのだが、毛細血管のように複雑に絡んでおり、全部抜くのは不可能だ。それでもスコップやクワで、深く掘り、下にいるゴボウのような根を見つけたら思い切り引っ張って抜くのだが、全部抜けることは稀で、だいたい途中で切るしかない。
クマザサについても「別にそんなにムキにならなくていいじゃん」と思うかもしれないが、諦めたらクマザサはどんどん侵食してきて、一面クマザサだらけになる。わが家を手に入れた当初がこうだったように。
これを何度も草刈り機で刈りまくりドッグランを作ったのが、おそらく何もしないと数年で元に戻るだろう。だからドッグランを守るために抵抗するしかないのだ。
その他にもありとあらゆる雑草が生えてくるので、春から秋は何度か草刈りしないと通路まで雑草が生い茂ってしまう。都会の雑草抜きとはレベルが違うのである。

冬が来る前に必要な薪づくり

ちなみに、これらは2拠点生活の頃からやっている。では完全移住して何が増えたのか。わが家の場合は、薪だ。
移住をきっかけに薪ストーブを導入したが、当然ながら燃やす薪が必要になる。初年度は割った薪を買うしかなかったが、来年以降のため、原木を買って割る必要がある。なぜそんなことをする必要があるのかというと、割った薪だと1カ月5万円くらいかかるからだ。それが11月から5月頭くらいまで続くことになる。
けれど、原木を買って自分で割れば半分以下になる。幸い伐採業者の知り合いができたからさらに割安で手に入る。そして運んでもらった広葉樹がこれである。
ここから薪にするには、チェーンソーで玉切りして、それを薪割り機で割らないといけないが、それらの道具は揃えてある。
ただ、この量を1人でやる気になれず、しばらく放置していると、大工さんが「一緒にやる?」と言ってくれた。1人でやれば2日以上かかるが、2人でやれば1日で終わるという。大工さんの家にも同じくらいの原木が積まれているので、うちが終われば大工さんの原木を片付ける。協力してやった方が気分的に楽だ、ということでまずはわが家をやることに。
2人でやると、本当に1日で片付いた。が、薪割りして運搬機で薪棚まで運ぶのは本当に心底疲れた。1日寝ても疲れが抜けないほどだった。が、その直後に伐採業者から電話があり「楢あるけど、いる?」と聞かれ、悩んだが、冬のことを考えて運んでもらった。
これをまた玉切りして運ばないといけない。しかし大工さんいわく、今年の冬、来年の冬のことを考えると、こうして春からできるだけ薪の準備はしておいた方がいいという。なんという重労働だ。
この他にもやることが色々あるけど、山の暮らしではのんびりしている暇なんてない。では山に移住して後悔しているかといえば、まったくしてない。むしろ良かったと思っている。
なぜなら、大福が快適そうだから。年々暑くなる都会に比べると圧倒的に涼しいし、そもそもエアコンが付いていない。信じられないかもしれないが、これを書いている5月下旬でも、さすがに薪ストーブはつけないが、夜は20℃以下になるのでFF式ストーブをつけることがある(標高1450メートル)。冬の八ヶ岳もいいが、夏はやっぱり最高である。蚊もいないしね。
このように私は忙しなく働いているが、大福は車がほとんど通らない道を散歩して、ドッグランで遊んで、昼寝して、山でのんびり暮らしている。それでいい。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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