先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
少し前、犬と暮らすご近所さんが「大河原峠にかなり開けた場所があるよ」と教えてくれた。蓼科の方で、うちから車で1時間かからないくらいだが、標高が1600〜2000メートルほどなので雪が多少積もっているのではないかという。
大福に雪遊びをさせてあげたい
そこで、次の休日にご近所さんと一緒に行ってみることにした。なぜなら、今年の八ヶ岳は雪が少なく、数センチ積もっては溶けて数センチ積もっては溶けてを繰り返している。
人間的にはそのほうがありがたいのだが、大福は思い切り雪遊びができていない。特に福助は、新雪に鼻からダイブする「鼻ズボ」が1度もできていない。だから十分に雪が積もっているところへ行って、思う存分雪遊びさせてやろうと考えたのだ。
到着してみると、予想通り雪が20〜30センチ積もっていた。これなら大丈夫。ただ、開けた場所に行くには多少山道を登らないといけないらしい。でも大福は登山が大好きだから問題ないだろうと出発した。
登山道で起こった思いがけないハプニング
カントリー用スキー板を履いたご近所さんが先頭を行き、新雪に道を作ってくれて、その後に私と妻と大福が続く。道を作ってくれるとはいえ、雪の坂道を登るのは結構しんどい。10分も歩くと、人間は汗ばんで上着を脱いだりするほどだった。
それでもここを登れば、一面真っ白な銀世界が広がる場所へ行ける。そう思って歩き続けた。大福も余裕のようだ。しかし、30分ほど歩き続けた頃、福助がちょくちょく立ち止まって肉球をなめるようになった。雪玉が気になるようだ。
雪の質や毛質にもよるが、犬が雪の上を歩いたり遊んだりすると、体に雪の玉ができることがある。福助はもともと雪玉ができやすいタイプで、この日の新雪でさらに条件が重なったのだろう。靴を履かせたいところだが、大福ともに固まって動かなくなる。
レジャーシートを敷いて休憩がてら、福助の肉球についた雪玉をとってやるが、どうせまたすぐに付く。でも目的地までは半分くらいしか来ていないという。さてどうするか。
すると、福助が来た道を引き返すように歩き出し、「ワン」ではなく「キャン」と吠えた。それを見て「よし、帰ろう」と決めた。
ただ、帰り道でも福助は、ちょくちょく止まって肉球をなめる。仕方ない、かついで帰るか。こんなこともあろうかと、スリングを持ってきておいてよかった。
スリングに福助を入れて歩き始めると、嫌がるどころか、まったく動かない。彼の体から「あぁ、これ、楽やわぁ」という感情がジワジワと伝わってきた。しかし、私は家族分の水筒やお弁当が入ったリュックを担いていた。それに加え、15キロ近くある福助をかつぎ、雪道、しかも歩きづらい下り坂を進むのはかなりきつい。
日々クロストレーナーで走っている私でも、しばらく歩くと「ハァハァ」と息があがる。だから5分ほど歩いたらしゃがんで休憩しなければいけなかった。
私が休憩しているときも、福助は微動だにしなかった。降りたいとか、そんな動きは一切なく「無」の状態だった。そして歩き始めると、また彼の体から「楽やわぁ」という感情が伝わってきた。
結局、そのまま車まで運んだ。私はもう全身汗だくだった。でも福助は何も悪くない。こうなったのは私が悪い。新雪の道を行こうとしたのは私なのだ。大吉は最後まで余裕だったけど。
このときの動画は『
インスタグラム 』にアップしたのでご覧ください。かつがれている福助は本当にまったく動かないから。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」 というブランドを立ち上げる。
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
『犬のために山へ移住する』(草思社刊)