人間と同じように、ペットも献血を必要としています。海外では血液バンクが広まりつつあるペットの献血ですが、日本においてはまだ認知度が低く、施設やドナーが不足している現状があります。また、ペットの高齢化や、採取した血液を他の動物病院に分配できないという法規制(注1)も血液不足の一因となっています。
いぬのきもちWeb編集室では、ペットの献血についての積極的な活動をしている、浦安中央動物病院を取材してきました。
動物医療の現場ではペットの血液が足りない
ある日、一頭のラブラドール・レトリバーがやってきました。
彼はなんと、6年前から献血に協力している献血ベテラン犬です。
6年間の「慣れ」なのでしょうか?採血時も全然へっちゃらだよ!と言っているかのような表情をしていました。
取材先の浦安中央動物病院では、現在14頭が献血犬としてドナー登録をしてくれています。ドナー登録制度がない動物病院も多いなか、積極的に献血犬登録の活動を行っており、善意のある飼い主さんによって成り立っています。
ペットの平均寿命が伸びていることや、獣医療が高度化して輸血が必要な病気を細かくみつけられるようになったことで輸血が必要な場面が増えています。
一方で、日本国内に大規模な血液バンクが存在しないことや献血犬としては適さない小型犬飼育の増加などの理由から、ペットの血液は不足しているのが現状だそうです。
こうした背景から現在は「人工血液」の研究開発も行われていますが、実用化はまだこれからです。
献血はどのように使われる?
供給された血液はどのように使われるのでしょう。院長の周藤行則先生に伺いました。
「手術や、交通事故などによる出血の際の輸血をイメージされる方も多いのではないでしょうか。もちろん、そういった用途でも活用されますが、実はそれは一部です。より多い場面としては、貧血の犬が来院したとき、適宜輸血を行い、状態を良くした上で検査をする用途があります。安全な検査によって正確な診断ができ、より最適な治療方針を立てられるようになるため、貧血の改善が見込めるわけです。」
と周藤先生。
血液を提供する犬の立場からすると、最近献血に呼ばれないな…?と思ったら、実は輸血をした犬の貧血状態が改善したからだった、といううれしい報告ということもあるそうです。
献血犬になるには?どのくらいの量を採取するの?
うちのコも献血で誰かを助けたい!と思ったらどうしたらいいのでしょうか。
「献血犬になるにはいくつかの条件を満たす必要があります。
施設によって異なることがあるため詳しくはかかりつけの病院にご相談が必要ですが、一例としては下記のようなものが挙げられます。」
・1~8歳程度の健康な成犬
・中型~大型犬(10キロ以上)
・混合ワクチン、狂犬病予防接種済み
・フィラリア・ノミ・ダニ予防済み
・血液に寄生虫がいない、血液の病気がない
・避妊手術済の女の子(妊娠・出産歴のない子)
・交配経験、交配予定のない男の子
・過去に輸血を受けた経験がない
・血液型が合う
まずは動物病院で血液検査を行った上で、献血が可能かどうかを判定してもらうことになります。
採取する血液は、体重1キロあたり20CCが目安となります(注2)。
輸血する血液の種類が少ない程、拒絶反応のリスクも少なくなります。このため、一度にたくさん採血ができる大きめの犬の方が献血犬に適していると考えられています。
献血犬について考えてみよう
献血犬は獣医療にとっても重要であると同時に、困っている誰かを助けられる機会でもあります。
「うちの犬も献血犬として他のコの役に立てるかも」という飼い主さんは、まずはかかりつけの先生に相談してみてはいかがでしょうか
そして、家族やまわりの犬の飼い主さんと、献血犬についてぜひ話題にしてみてくださいね。
注1) 農林水産省動物医薬品検査所、薬機法、RIAS(一般財団法人生物化学安全性研究所)参照
注2) 日本獣医輸血研究会参照
取材・文/いぬのきもちWeb編集室