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犬を「叱る」と「怒る」はどう違う? |連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.40

「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
今回は、犬への「叱る」と「怒る」の違いに関するお話。この2つ、意味が違うことをご存じですか? 困った行動をした犬に対して、どちらで注意するのがいいと思いますか? 西川先生によると、実はどちらもNGなのです! はたしてその理由は……?(編集部)

「怒る」と「叱る」は違う。
「怒る」のは感情に任せての自己中心的な行為、「叱る」はその子の将来のことを思って行う自己中心的ではない行為。
人間の子育てや教育で重要なのは「叱る」こと、「怒る」ではない。親も教師も怒るのではなく、叱ることが大切。
私も二人の子の親ですが、子どもたちがまだ小さいときに、この「叱る」ことと「怒る」ことの違いを知り、なるほどと納得したものです。
でも、これ犬に当てはめるのは大きな間違い。
いわゆる擬人化すべきではないことを擬人化しているいい例です(擬人化に関しては当コラムVol.17参照のこと)。
母犬は子犬を怒るけど、叱っているわけではない。
その辺の解説をば。

将来に思いを馳せることなどしない犬

当コラムVol.17ですでにお話ししているように、犬は人間が3歳児前後に獲得する、時間や数の概念、死ぬことなど、目の前にある現実以外のことを想像する能力を持ち得ない。
これは、人間の子どもたちが3歳児前後、会話が理解できる能力を獲得し、言語を「思考の道具」として使えるようになる一方、犬はその能力を獲得できないから、といえます。
目の前にある現実以外のことが想像できないということは、犬は将来のことを想像したりしないということ。
我々とは違い、将来のことなど考えずに、現実のみを生きている。それが犬なのです。
「叱っていない段階はお客様的な存在、叱って初めて家族になる」。昔、某ドッグトレーナーがこんなことを語っていた。もっともだ、なんてうなずきそうな話だけど、これ典型的なやってはいけない擬人化

自分の将来のことを想像しえないのに、他者の将来のことなど……

自らの将来のことを想像する能力を有しない犬が、他者の将来のことに思いを馳せられるでしょうか?
「叱る」はその子の将来のことを思って行う自己中心的ではない行為、であるならば、親犬は子犬を「叱る」ことはしない、ということです。
でも親犬が子犬を叱っているのを見たことがある……
いえいえ、よく観察すればわかるはずです。
親犬達は、おっぱいを強く噛むなど自分にとって嫌なことをする子犬に対して、その嫌なことを排除しようとしてうなったり、噛んだりしているだけです。
刺激に対する反応、および行動と結果の連鎖などの学習は犬も行う。例えば、ドアフォンに吠える犬は、ドアフォンが鳴ると他人がテリトリーに入ってくる、吠えることで相手がいなくなる、これを過去の経験から学んでいる。そういった意味で、極めて近い未来は犬も予測可能という見方はできる

親犬がしている行為をよしとするのなら

母犬はこうしているから、人間もこうすれば犬に伝わる、などといったことを口にする人がたくさんいます。100歩譲ってそれが正しいとするのなら、「叱る」のは間違い、「怒る」でないといけません。
もちろん、100歩譲るわけにもいきません。
叱るのも、怒るのも、犬にストレスを与えるということでは同じです。ストレスを与えてくる相手は避けるようになる。ストレスを与えてくる相手とは視線を合わせなくなる。
それでは犬にも人にも、幸せホルモンと称されるオキシトシンは増えません(オキシトシンに関しては当コラムVol.3参照のこと)。
ところで、なぜあなたは叱るのか、怒るのか。
それは、犬が好ましくない行動をしているからではありませんか?
お箸の持ち方を教えていない子どもが上手にお箸を持てないからって、あなたは子どもを叱りますか?
丁寧にお箸の持ち方を教えるのではないですか?
それと同じことです。
叱るのではなく、好ましい行動を丁寧に教えることです。
幸い私たちは、自らの将来にも犬の将来にも、思いを馳せることができるのですからね。
思考の道具としての言葉を獲得しているからといって、他の動物よりも人間が優れているわけでもなんでもない。犬や他の動物はそんな余計な道具が必要ないだけ
文/西川文二
写真/Can ! Do ! Pet Dog School提供
https://cando4115.com/index.html

西川文二氏 プロフィール

公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can ! Do ! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『イヌのホンネ』(小学館新書)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!柴犬ぐらし』(西東社)など。愛犬はダップくん(15才)、鉄三郎くん(11才)ともにオス/ミックス。
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