先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
わが家は朝と夕方、2回散歩に行く。雨でも台風でも行くが、だいたい彼らはそのときにウンチやオシッコをする。ごく稀に、おなかの調子が悪く
ピンチになることもあるが、基本的には散歩で用を足すことにしているようだ。それでは不憫だろうと家にもトイレスペースを作ったが、そこではしたくないらしい。
家でもトイレ作戦には、敗北した。
外でしか用を足さない2頭
自分に置き換えて考えてみても、朝と夕方しかトイレに行けないなんて無理だから、恐るべき便意コントロール力があるのだろう。それはすごいと思うのだが、たまに福助は夕方の散歩でウンチをしないことがある。したそうでなければそれでいいのだが、今にもしそうでウンチングスタイルになるのに、何かが違うとまた歩き出す。いつまでもしないので、結局しないまま家に帰ることもある。
そうすると、彼のルールでは翌朝までチャンスがないことになる。想像してみて欲しい。ちょっともよおしているのに、朝までがまんしなければいけない状況を。それはつらすぎるだろうと思うから、用を済ませた大吉だけ家に置き、再度福助だけ連れて行く。
それでしてくれたら、こっちもスッキリするのだが、2度目の散歩でもしないことがある。福助のためを思ってわざわざもう一度行ったのに、砂浜に穴を掘って遊んだだけで「もう帰ろう」と促される。何なんだよお前、さっきのウンチングスタイルは何だったんだと憤るが、当然答えは返ってこない。きっとさっきはちょっとしたかったけど、引っ込んだんだろう。
こだわりの福助
オシッコも同じで、夕方から翌朝までは長いのではないか。おそらくがまんはできるんだろうけど、できればスッキリして眠いたいのではないか。そう思って夜の21時頃になると、いったん家の前の草むらに連れ出す。すると大吉はあっさりするのだが、福助はなかなかしない。ニオイをかいで、何か違うとテケテケ歩き、またニオイをかいでテケテケ歩く。しばらくそれを繰り返す。断っておくと、もっと散歩したくてそうしているわけではない。長年暮らしているからそれくらい分かる。どうもその場所の何かが納得できないようだ。
そんなもん知るか、オシッコする場所に納得するも何もないだろう、さっさとせんかボケ!と怒鳴りたくなるのをぐっと堪え(そんなことしたら余計引っ込むから)、黙って本人が納得する場所が見つかるまで待つ。といっても家の前だけだから、そんなにポイントはないと思うのだが、しきりにクルクル回っている。
しかも納得ポイントは、毎日変わる。それが見つかるまで、私と大吉はひたすら待つ。特に寒い冬場は止めて欲しいが、福助はそんなことはおかまいなしにポイントを探す。さみいから早くしてくれと願いながら、今日も待つ。なぜならスッキリして寝て欲しいから。そして本日の納得ポイントが見つかり、ジョオオオオとすると「さ、帰ろ」という顔をする。
きっとここまで読んで「分かる!」という人もいるに違いない。もう仕方ないよね。彼らの謎のルールに従うしかないのだろう。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。