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犬はメンタルヘルスケアになっているのか【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

いつもニコニコしている人と、無愛想にムスっとしている人、あるいはどちらもでなく無表情な人がいる。私は自分では分からないが、たぶん無愛想な部類に入るのではないかと思う。「第一印象はめっちゃ感じ悪かった」と言われることが多いので、きっとそうなのだろう。

ニコニコしている人がよい?

別に機嫌が悪いわけでも、警戒しているわけでもない。人相が悪いわけでもない、と思う。「普通」にしているだけだ。むしろ、何もないのにニコニコしている人の心理が分からない。愛想笑いならまだ分かるが、本当にいつも楽しそうな顔をしている(ことが多い)人がいるのを知っている。いったい何が楽しいんだろう、と逆にうらやましくなる。
私だって常に無愛想なわけではなく、友人と酒を飲みながらバカ話をしてゲラゲラ笑ったりする。しかし普段、何もないと「普通」の顔になる。
しかし人は、楽しくなくても意図的に笑顔を作ることで、免疫力が上がったり、幸せホルモンが分泌されて、ポジティブになるという説がある。ほんまかいな、と思うが、なんとなくムスっとしている人より、ニコニコしている人と一緒にいる方が楽なのは間違いない。だから少なくとも人間関係においては、ニコニコしている方がいいのだろう。
そうはいっても、私は何もないのにニコニコするのは苦手だし、意識してもついつい忘れて「普通」に戻ってしまう。今だってきっと無愛想な顔でこの原稿を書いていると思うが、笑いながら原稿を書くやつなんているのか、と思う。

人の気持ちを読み取る大吉

そんな調子だから、私は人に対して愛想笑いをすることもないが、実は犬だけにはする。というのは、大吉は人の感情をすごく読むからだ。無愛想な「普通」の顔ならなんともないのだが、少し機嫌が悪いと、敏感に察知する。たとえば仕事の単純なミスや、理不尽だと感じることや、嫁にイラッとするなど理由は何でもいいが、誰だってちょっとムカつくことくらいあるものだ。
私は犬に八つ当たりなんて絶対しないが、パソコンの画面に向かいながら、心の中で「ふざけんなよ」と思うことはある。すると、後で昼寝していた大吉が、急に立上がってよそよそと仕事部屋から出ていこうとしたり、チラチラこちらを見てきたりする。一言も発していないのに。しかも背中しか見えていなかったはずなのに、なぜ私がムカついたことが分かったのだろう。背中から怒りオーラでも出ていたのか。
そういうとき、私はすぐに大吉に向かって無理やり笑顔を作り「全然怒ってなんかないよぉ〜」と必死におどけてアピールする。別に私に怯えているわけではないが、大吉はそういう「空気」が嫌いなのだろう。何度もアピールすると「あ、そうなの」と納得したようすでまた昼寝する。そして私はパソコンに向かって仕事に戻る。大げさに作り笑いをしたせいかどうかは分からないが、「ふぅ、まぁいいか」と多少怒りが和らいでいたりする。だから無理に笑顔を作ることが、メンタルヘルスケアになっているのではないかというのは多少実感している。
ちなみに、そういう空気に敏感なのは大吉だけで、福助はたいがいずっと寝ている。でもときどき、雪に頭から突っ込んだり馬鹿なことして笑わせてくれたりする。意図的ではないと思うが。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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