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昔と今の飼い方の違いと、犬の変化【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

わが家の大吉と福助は家の中はどこでもフリー、ソファーもベッドもどこでも自由に使っているし、彼らもそれが当然だと思っている。たぶん、同じような家庭も多いのではないだろうか。しかし昭和46年生まれの私が子どものころは、考えられないことだった。

犬は外で飼うものだった時代

家には常に犬がいたが、居場所は玄関で、部屋にあげることは親が許さなかった。屋内に入れているのはまだましな方で、庭につないでいたりして「犬は外で飼うもの」という認識が一般的だった。小学校の友達の家もみんなそんな感じだったし、まれにマルチーズなどの小型犬を室内飼いしている家庭もあったが、まだまだごく少数だった。
当時、私がどう思っていたかというと、不憫でならなかった。畳一畳もないわが家の狭い玄関に手作りの犬小屋があり、散歩以外はずっとそこにいる。犬もその状況を受け入れて、特に不平不満を訴えることもない。その健気さがまた不憫で、なぜ家にあげたらだめなのか親父にいくら文句を言っても「だめだ」の一点張りだった。
今なら親が何を言おうが自分の好きなようにできるが、その頃は子どもだったから従うしかなかった。ならばと両親がいない隙を狙って犬を家にあげて遊んでは、後で必ずバレて叱られたりしていた(抜け毛でバレることすら想定できていなかった)。
犬と一緒に眠ることが「夢」だったので、家にあげるのがだめならと玄関にダンボールを敷いて、そこで私も寝ようとしたことがある。しかし犬は嫌がって慣れ親しんだ犬小屋に入ってしまい、諦めてすごすごと自分の部屋に戻った悲しい記憶もある。
ただ、思い起こせば「うちで飼っていい?」と自分が拾ってきたくせに、最終的に日々の散歩やゴハンは親にまかせっきりで、私が犬と触れ合うのは出かけるときと帰ったときにちょっとなでたり遊んだりする程度、学校から戻るとすぐに友達と遊びに行ったりしていたから、責任感のかけらもない「子ども」だったのだ。

自立して変わった犬との暮らし方

そのことは、大人になって初めて飼った犬、「富士丸」との暮らしで深く反省した。同時に、子どもの頃にだめだと言われたことも自由にできた。家の中はどこでもフリー、といっても当時は30平米もない1DKだったから、大型犬の彼には窮屈だったことだろう。
40年前は、大型犬を室内で飼うなんてあり得ないことだったが、気がつけば今ではそっちの方が圧倒的多数になっている。それ以外にも、狂犬病予防は昔からあったがフィラリアやノミ・ダニ予防薬なんて浸透していなかったし、犬の飼い方はずいぶん変わったと思う。
だからといって、私は別に犬は室内飼いの方がいいと言いたいわけではない。予防薬などを飲ませた方がいいのは間違いないが、犬は本来、屋外でも生きていける種である(小型犬など一部の犬種を除き)。私の場合、自分がそうしたいから彼らは家の中で自由にさせているだけだ。

犬自身もいろいろ変わった?

とにかく、ここ数十年で犬の「待遇」は変わったわけだが、当の犬たちも少し変わったことがあるのではないかと感じることがある。
まずひとつが、表情が豊かになった気がする。外で飼われている犬は表情から感情を読むのが難しいのに対し、室内で暮らしている犬は、楽しいのか、満ち足りているのか、不満なのか、あるいは何もやることがなくて暇なのか、だいたい分かる。それはなぜなんだろうと考えてみたが、常に近くにいるせいで、彼らは人間の表情や感情すら読み取るようにったのではないかと思う。その証拠に、ふと振り返ると、大吉や福助がこちらを見ていることがある。まるで観察されているように。
似たような経験がある人も多いのではないだろうか。室内で一緒に暮らす犬は、飼い主をよく観察している。そして、おそらくどういう表情をすれば飼い主に自分の意思を伝達できるかを学習した、のではないか。
もうひとつは、人が近くにいても熟睡すること。子どもの頃、家にいた犬は眠っていても近づくとすぐに起きた。かまってもらえると喜んでいたのか、本能で無防備な姿を見せたくなかったのかは今となっては分からない。
犬が爆睡している姿を近くで見たのは、富士丸が初めてだった。そればかりか寝言でフガフガいうし、少しくらい揺すっても起きない。最初はそのことに驚いたが、大吉と福助もまったく同じである。
しかも、福助は山の家で朝なかなか起きない。明らかに起きているくせに、揺すっても「まだ眠い」という顔をしたりする。無防備すぎるし、お前は外で暮らせるのか、そもそも犬としてどうなのかと思うが、子どもの頃の「夢」だったから、よしとしよう。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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