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今が一番楽しい?【穴澤賢の犬のはなし】

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先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

少し前に、取材である人のところへ行って話を聞いた。その方はかつて千葉県でサラリーマンをしていたが、60歳で定年してからは八ヶ岳で暮らしている。千葉で結婚して子育てしていたが、その頃から山に興味があり、まず土地を買い、月に何度か通ってほとんど自力で山小屋を建てた。子どもが小さいときは家族で来ていたが、大きくなってからは手もかからなくなり、次第に1人で来るようになり、定年を期に完全移住したそうだ。

リタイア後の八ヶ岳ライフ

67歳になる現在、保護団体から迎えた犬と山小屋で一緒に暮らしているが、「生きてきた自分の人生の中で今が一番楽しい」と穏やかに微笑みながら話すのには、内心ちょっと驚いた。

その言葉に偽りはなく、本心から言っているのが表情から伝わってきたからだ。定年して隠居生活みたいなものかと思ったが、今も自分で木に登って枝を切ったり、露天風呂を自分で(!)作ったり、家をあちこち増築したり、人の手伝いをしたり、やることがたくさんあるという。

67歳だよ? なんで木に登って枝を切ろうと思うの? なんでも敷地に生えている木の枝を切って薪ストーブ用の薪にするという。それなりに高い木なのに、危ないじゃん、買えばいいじゃん、と私は思うが、わざわざ買わなくても生えているんだから切ればいいという。たしかにそうかもしれないが、私は怖くて登れない(高所恐怖症じゃないよ)。

「今が一番楽しい」理由

何よりも驚いたのは、「今が一番楽しい」ということだった。愛犬と「ひとりと一匹」の暮らしに満ち足りている様子だった。犬は言葉を話さないけど、何を思いどうしてほしいのかを考えるうち、犬も人を理解してくれるようになり、ちゃんと意思疎通ができるようになったのがとても心地がよいという。そして、若い頃でも家族との時間でもなく、今が人生で一番楽しい。そう言い切れるのがすごいと思った。

その気持はちょっと分かる。狭い1DKで暮らしている頃、お金もなかったし、馬鹿だったし、不安だらけだったが、富士丸とは何も話さなくても意思疎通ができて、お互いに理解し合えていたようなあの空気は、かけがえのない楽しい時間だったと今でも思う。ただ、一番楽しかったとは思わない。

今は50歳になり、そばには大吉と福助がいる。相変わらず馬鹿で不安だらけだが、彼らのために山の家も手に入れたし、ドッグランも作って、毎年草刈りに追われている。別に草刈りが楽しいわけではないが、今はあの頃とは別の充実感がある。

それでも「今が人生の中で一番楽しい」という実感は特にない。まだやりたいことはたくさんある。でも逆にいいのかもしれない。67歳で今が一番楽しいと断言している人がいるんだから。ひとつ間違いないのは、私の場合も、犬がそばにいる暮らしが重要なポイントになっているようだ。

※取材した記事は「達人に聞く、山の暮らし」で検索すれば見つかると思います。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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インスタグラム

大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。

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