先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
犬との暮らし方は人それぞれだし、トレーナーによっては推奨しないケースもあるが、私は犬がベッドにあがるのを許している。彼らもそこで寝るのが当然だと思っている。それこそ、私が子どものころから憧れていたことだ。
穴澤家のルールは?
ベッドはおろか、ソファーでもどこでも自由だし、わが家で犬が入ってはいけないゾーンはない。幼いころは留守の間にティッシュを全部出したり(大吉)、クッションを食いちぎられたり(福助)、思い入れのあるソファーを食い破られたり(福助)されるのを防御するため留守番時はサークルに閉じ込めようと試みたこともあるが、結局あれこれやられた経緯を経て今は何もやらないので好きなようにさせている。
話をベッドに戻す。先代犬の富士丸も最終的にはどこでもOKだったが、幼いころは厳しくしつけないといけないと思い込んでいる時期があり、ベッドに乗ると「ダメ!」としかったことがある。
そのせいで富士丸は本気で眠るときは自分用のベッドで寝るようになった。だから富士丸とベッドで一緒に眠ることはなかった。男同士で気持ち悪いのだが、私は犬と一緒に寝るのが夢だったことを思い出したときには「時既に遅し」。
その反省から、大吉と福助は迎えた日からベッドで一緒に眠っている。特に大吉はなぜか枕をちゃんと使い、本当に人のように寝ている。
一緒に眠ることに憧れていた理由
改めて、私はなぜ犬と一緒に眠ることに憧れていたのだろうと考えてみて、子どものころに見ていた『アルプスの少女ハイジ』や『フランダースの犬』、『名犬ジョリィ』あたりの影響が大きいのではないかと思う。どのアニメでも少年(少女)と大きな犬がいつも仲良く、時には犬を枕のようにして一緒に眠っていた。それを見て、幼かった私は「いつかあんな風にしてみたい」と思ったのだろう。
当時も犬(ミックス)はいたのだが、親が家にあげることを許さず、ずっと玄関の犬小屋で寝ていたため、であればと玄関に段ボールを敷いて一緒に寝ようと試みたが、犬に拒否されるという悲しい過去があったせいかもしれない。
とにもかくにも、長い月日を経てその夢は叶ったわけである。大吉と福助を枕にすることは大きさ的に無理だし、ちょっと寄りかかるだけで嫌がるし、そのくせ逆にこっちが枕にされることもあるくらいだが、それはそれでいい。彼らが夢を見て、隣で足をバタバタさせたり、明らかに寝言で突然吠えたりしても、それはそれでいい。何より、ちょっと触れるとほんのり温かいのがいい。朝起きて彼らがそばで眠っていると、それだけで幸せな気持ちになる。
ただ、揺すっても起きないのは犬としてどうなのかと思うと同時に、毎朝、私が先に起きて玄関で支度をして「お前らー、散歩行くぞー!」と何度も呼んで、ようやくだるそうに階段を降りてくるのには、ちょっとあきれる。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
ツイッター
インスタグラム
大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。