犬のニオイは幸せの香り【穴澤賢の犬のはなし】

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先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」（どちらもミックス）との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

私は毎日必ず大福をなでたり、ギュとしたり、モフッと顔をうずめたりしている。以前からずっとそうだが、最近ある記事を読んでからはより意識してやるようになった。

「ギュ」することの大切さ

その記事とは『優しい「ギュ」で気持ちよくなる仕組みが判明！ギュの伝達物質を発見』というものだ。犬に限らず猫や牛や豚やイルカまで、すべてのほ乳類は優しく「タッチ」されることを喜ぶ傾向があるが、それがなぜなのかは分かっていなかった。

そこでマウスで実験したところ、優しくなでられると、ある伝達物質が脊髄神経を介して触覚信号が脳に伝わっていることが分かったという。興味深いのは、この伝達物質を取り除いたマウスは、触れ合いを拒み、孤立していくそう。
マウスは社会的な生き物なので、孤立したマウスはストレス耐性も低下してしまう。触れ合うことの重要性がわかった、とある。
（詳しく知りたい方はこちら）

なるほどそうなのか、ということで大福には以前にも増して、なで回したりモフッとしている。あの顔をうずめたきの感触や、ニオイがたまらなく好きだ。なぜだか分からないが、彼らはほんのりと芳ばしい香りがする。肉球にいたっては、日向のような香りがする。洗濯した雑巾のニオイとも似ているが。ただ、臭いとは感じない。

犬種によって多少違うのかもしれないが、富士丸もそうだったし、大吉と福助も似たような香りがする。その香りを嗅ぐと、ちょっとホッとするというか、なぜか幸せな気分になる。

犬のニオイと幸福感

犬の体には汗腺がないから（肉球以外）、人間のように汗臭くなることはない。2カ月くらい洗わないと次第に「犬臭く」なるが、それも臭いとは感じないし、むしろそれはそれで好きだったりする（衛生面からわが家は1、2カ月に一度くらいの頻度で洗っているが）。もしかしたら、嗅覚がまひしているのかもしれない。

だいたい大福が無防備に寝転んでいるときに、おもむろにモフッと顔をうずめたりすると一瞬「何？　なんやの？」という若干迷惑そうな顔をするが、そう見えて実は伝達物質が分泌されているのだろう。大吉の次は福助へ、そしてまた大吉へと何度も顔をうずめ、日々彼らを心地よくして、ストレスを緩和する努力をしている。

そんなことを言いながら、実は心地よくなったりストレスが緩和されているのは自分の方ではないのか、と思う。なぜなら、大福はちょっと迷惑そうな顔をしているのに、私はニコニコしているからだ。客観的に見なくても、分かる。うれしそうにしているのは、私だ。それを大福は「はいはい、好きにして」となで回されている。なんて心が広いのだ。これはわが家のケースだが、「うちもそう！」という方も多いのではないだろうか。

申し訳なく思いつつ、今日も彼らをなで回し、顔をうずめよう。あのちょっと芳ばしい香りをかぐと、なぜか幸せな気持ちになるから。

プロフィール
穴澤賢(あなざわまさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』（世界文化社）、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年１月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約２カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。