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退院余談〜その2「穴澤賢の犬のはなし」
退院余談〜その2
退院してから、大福たちがどこか元気がなく見えた。数日ほどでひとりで散歩へ連れて行けるくらいまで体力は回復したが、以前に比べたら落ちていた。なるべくそんな顔はしないように心がけたが、散歩中の大福がはしゃぐこともなかった。不思議だったのは、福助の便秘気味がケロッと治っていることだった。
というのは退院後、体力が落ちていたこともあるが、精神的にも少し変だった。何をしていても面白く感じないし、充実感もない。別に拗ねているわけでも醒めているわけでもない。ただ、以前なら思わず笑ったり、意欲的に動いたりしていたはずなのに、なぜかそんな気にならないのだ。
階段から落ちて死にかけたのに回復したのはありがたい、ということは頭では理解している。が、実感がなかった。あるときから突然記憶がなく、気がついたら病室だった。どうやって階段から落ちたのか、なぜそれほどのけがをしたのかもわかっていない。不謹慎だが、どこか狐につままれたような思いが残っている。なのに体力は落ちて、後頭部には大きな傷まである。ひたすら「何やってんだろ、俺」という気持ちだった。
おそらくだが、この時期「ドーパミン」や「セロトニン」といった脳内物質の分泌量が少なくなっていたのではないかと思う。楽しい嬉しいという感覚や、安心感みたいなものが極端に薄くなっていた。そんな状態が続いたので「たぶんこれは脳が原因だろうな」と察して、仕事も家のこともただ目の前のやるべきことをやり、食べて、寝ることだけを意識していた。
そんな姿を大吉と福助は観察していたのだろう。「なんだこの無気力なやつは」と思っていたのかもしれない。ただ、彼らのことはできるだけやろうとしたし、暇さえあればなでるようにしていた。そのうち、少しずつだが心が安定してきて、笑ったり、おちょくったりできるようになってきた。
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