犬と暮らす私の夏の朝
今年の夏は、異常に暑い。毎年「夏ってこんなに暑かったか?」と思ってきたが、そのレベルを越えている気がする。日中外など歩こうものならすぐ汗だくになり、「早く冷房のきいた室内に逃げないと死ぬ」と思うほどだ。7月の時点で最高気温が35度以上のところもあったので、8月9月が思いやられる。
こんなに暑いと自分も辛いが、犬がいると散歩の時間にも気を使わなくてはならない。彼らは人間より暑さに弱いので、朝は日が高くなる前に、夕方は涼しくなってから、散歩に行くようにしている。夕方はいいとして、信じられないことに大吉と福助は朝が遅いので困る。
その前に補足しておくと、わが家では夜もずっと寝室はエアコンをつけている。夜中にタイマーが切れたりすると、すぐに起きて「ハァハァ」いうから、本当は切りたいのに切れないのだ。「体だるくならないの?」と思うが、彼らはいつもエアコンのきいたベッドでスヤスヤ眠っている。
そんな中、私は6時前に目覚ましで起きると、すぐさま玄関に降りて散歩に行く準備をする。早くしないと気温が上がるから「散歩行くぞー!」と呼ぶが、大吉も福助も全然寝室から出てこない。のんびりしてはいられないので、何度もしつこく呼んでいると、やっと降りてくる。そして、だいたい大吉に「もう行くの?」という顔をされる。
「早く行くぞ!」と言うと、「しょうがないなぁ」という感じで階段を降りてくる。彼らの中では完全に、散歩に行きたいのは私で、それに付き合ってあげてることになっている。「外でしか排せつしたがらないお前らのことを思ってだろーが!」と叫びたくなるが、とりあえず暑くなる前に急いで散歩に行く。
犬は通常、散歩が大好きで人を起こす、と思っていたが、彼らは違うらしい。散歩に行ったら行ったで、テンションは低く、自分が用を足したらすぐ帰りたがる。毎日腰越(神奈川県鎌倉市)の砂浜を歩くが(そこが一番用を足す確率が高いから)、海とか景色とか、どうでもいいらしい。
そして、家に帰ると、大吉も福助もエアコンのきいたリビングで(散歩に行く前に私がスイッチを入れるから)、「いやー、外は暑くて災難だったねぇ」という顔をしている。私はまた叫びたくなるのを、グッと堪える。早く、涼しくならないかねぇ。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。
株式会社デロリアンズ代表。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。
ブログ「Another Days」
大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雪と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。