犬と暮らす者の朝は早い。特に夏は気を使う。なぜなら、7時にはもう暑くなるからだ。人間でも歩くと汗ばむほどだから、犬にとっては地獄だろう。そのため6時には起きて、暑くなる前に散歩に行かなくてはならない。
なぜか散歩を催促する係に
たいてい犬は散歩が大好きなので、目覚ましなんかかけなくても犬が「そろそろ散歩に行こうよ!」と起こしてくれる。富士丸もそうだった。しかし、なぜか大吉と福助は催促してこない。ダラダラゴロゴロと寝ているのだ。そんなことしているとじきに暑くなるので、私が目覚ましで起きて「ほら、行くぞ!」と催促することになる。
そうしていると、いつの間にか大福の中では散歩に行きたいのは私で、自分たちは仕方なく付き合ってあげている、という図式になっているようだ。階段を降りてくるときも「はいはい、わかりましたよ」という顔をされるし、外へ行ってもテンションが低い。そして、砂浜で用を足したら早々に帰りたがる。
迷惑そうな顔をされ
ちょっと待てと言いたい。君らが外でしかウンチをしないから、台風でも大雨でも散歩に行くのだ。そんなときも「なんでこんな日に散歩に行かないといけないの?」という顔をされるし、夏は暑くなる前に急いで行くと「なんでこんなに早く行くの?」という顔をされる。なんでだ?
「お前らが外でしかウンチせんからじゃボケー!」と叫びたいが、大人なのでグッと抑えて日々散歩に行く。しかし、夏でも山の家は少し事情が違う。八ヶ岳(長野)の標高1500メートルあたりにある山の家は、腰越(鎌倉)より、だいたい10℃は気温が低い。たとえば腰越が30℃でも、山の家あたりは20℃前後というふうに。
夏の朝も快適な山の家
だから、朝もそんなに早起きしなくていい。とはいえ、だいたい7時くらいには起きて散歩に行っていた。山の朝は気持ちがいいし、大吉と福助も腰越を散歩するときより、嬉しそうにしている。散歩から帰るとドッグランで走り回ったりしている。そのせいか、夜8時ころには本気で寝始める。山の家にいるときは、いつもよりよく眠るような気がする。
そんなドッグランでたくさん遊んだある日のこと。その夜も大福と嫁は早々に寝ていたが、私はなぜかあまり眠くならず、お酒を飲みながら何度も観たことのある映画のDVDをぼんやり観ていた(ブレードランナー)。すると、いつの間にか夜12時を回っていた。山の家では普段寝ている時間だ。でも休日だから別にいいか、と目覚ましもかけずに眠りについた。
寝坊した横で
翌朝、目が覚めて「ん〜、ゆっくり寝たなぁ」と思いながら、スマホを見てびっくり。もう9時だった。とっさに「ヤバイ!」と焦りまくったが、よく考えれば山の家だった。そんなに気温を心配しなくていい。と思いながら振り返ってまたびっくり。大吉と福助が、まだ寝ていた。
おそらく犬と暮らしているほとんどの人は「そんなバカな!」と信じられないかもしれないが、一切盛っていない実話です。どこまでゆるいんだお前らは、と思ったのだった。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。