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<特別編> 夢の実現と予想外のアクシデント(1)【穴澤賢の犬のはなし】

「いぬのきもち WEB MAGAZINE」の連載『穴澤賢の犬のはなし』から記事を抜粋し加筆修正、撮り下ろし写真も加えて書籍化した書籍化された『犬の笑顔が見たいから』(世界文化社刊)が発売されました。
この書籍では、穴澤賢さんの夢であった「山の家」を手に入れて環境を整えるための話が収録されています。
そしてもう1つ、山の家を手に入れたあとの2018年3月に穴澤賢さんは生命に関わる大きな事故に遭遇しました。一時は命さえも危ぶまれたこの事故と、その後の奇跡的な復活、愛犬と再会したエピソードを、書籍『犬の笑顔が見たいから』より抜粋・加筆して、今回から、3回にわたってお届けします。

突然の緊急手術

 2018年3月6日の夜12時頃、私は自宅の階段から落ちて頭を強打した。当日から約2週間の記憶がないため、妻から聞いた話を元に経緯を書いてみる。
 その日私は、ある出版社の担当者とフリーランスの編集者と3人で食事をする約束をしていた。3人で進めていた書籍の編集作業が終わったので、打ち上げを行うことになっていたのだ。江ノ島水族館近くのレストランで、18時に待ち合わせしていた。仕事とはいえ、昔からの知り合いだから堅苦しい話はせずに終始和やかな雰囲気だったと思う。
 飲んで都内まで帰るのも大変だし、金曜日だからうちに泊まってもらう予定だった。そのためレストランを出た後は、わが家で飲み直すことになった。
 お店では白ワインを飲んでいたが、そんなにたくさんは飲んでいなかったはずだ。家で飲み直しているときも、大吉と福助を撫でながら楽しくわいわいやっていた。そのうち都内で働く妻も帰宅し、その輪に加わった。
 いつしか夜一1時半を過ぎていたから、私は慌てて大吉にトイレスペースでオシッコをするよう促した。いつもの日課である。大吉は用を足したが、福助はしない。そういうことはよくあった。朝まで我慢させるのも忍びないので、玄関を出てすぐ前にある草むらでオシッコさせようとした。
 みんなにそう告げて福助を先に行かせ、2階のリビングから階段を降りようとした。
 私がリビングから出て行き扉を閉めてほどなく、ドドドドッ、ガシャン、ドスン! という大きな音がした。

玄関に頭を向けて仰向けに

 驚いた妻が扉を開けて確認すると、玄関に仰向けに倒れている私が目に入った。それを見て「あぁ〜あ、何やってんの、馬鹿だなぁ」と呆れたが、すぐに異変に気がついた。
 私は玄関のドアに頭を向けて仰向けに倒れ、足をたたきに上げていた。そのままピクリとも動かない。慌てて階段を降りて確認すると、白目を剝いていて、呼びかけても反応しない。その横で、福助はわけが分からず困った顔をしていたという。

なぜ、このようなことが起こったのか

 なぜ階段から落ちたのか分からない。私はこれまで酔って階段から落ちたことは一度もない。多少飲んでいても、足を踏み外したこともない。階段には犬のため滑り止めも貼っているし、手すりもある。仮に酔って転んだとしても、足が滑って尻もちをつく程度のはずだ。なのになぜ頭から落ちたのか。状況から推測すると、階段を降りる前に意識を失っていたのではないかと思う。それで頭から転がるように落ち、玄関の床に打ち付けたのだろう。でも、これまで失神した経験もない。何がどうなったのか、誰も見ていないから真相は分からないままだ。

深夜の救急搬送、集中治療室へ

 とにかく妻は「救急車を呼ばないと」と焦った。リビングにいた編集者たちもただ慌てている。動転しながら妻が電話をかけていると、私の後頭部から黒っぽい血が流れはじめた。しかも白目を剝いているのに、いびきをかきはじめた。
 電話で状況を伝えて救急車を呼んだが、待つ間に私の頭の周りには血溜まりが広がっていく。
 10分ほどで救急車が到着。救急隊員によって私は玄関から運び出され、救急車へ担ぎ込まれる。編集者たちを自宅に残し、妻が救急車へ乗り込んで状況を説明する間も、ピクリとも動かない。救急隊員に「手を握って声をかけてあげてください」と言われるが、まったく反応しない。
 ほどなく、大船にある大きな総合病院に到着すると、私は集中治療室へ運ばれていった。集中治療室とは、患者ひとりにつき看護師が在中していて、常に容態をチェックしている特別な部屋らしい。妻は待合室で待機するよう言われ、時間だけが過ぎていった。
 深夜2時半頃、脳外科医が自宅から病院に駆けつける。同じ頃、深夜にもかかわらず、妻から連絡を受けた私の友人たちが病院に集まり始める。
 到着した医師は、病院に担ぎ込まれた0時すぎと、午前3時のCTの画像を見比べた。
0時すぎのCTで「頭蓋骨骨折(ずがいこつこっせつ)」と「脳挫傷(のうざしょう)」、「外傷性くも膜下出血」が見られており、さらに3時のCTでは小脳に「急性硬膜外血腫(きゅうせいこうまくがいけっしゅ)」と「急性硬膜下血腫(きゅうせいこうまくかけっしゅ)」が確認されたと、妻と友人たちが説明を受ける。
 この時点で、かなり危ない状況であると告げられる。
 このとき駆けつけてくれた友人は美容整形外科医だが、過去には大学病院の研修医だったこともあるため医師の説明を理解しており、話を聞くうちに涙がこぼれ落ちたという。
 その後、朝7時のCTを見て、緊急手術をするかどうかの判断を下すということになる。
 医師の説明によると、このような状態で手術をするのは、かなりのリスクがあるとのことだった。なぜなら手術をしても助かる可能性が60%と低く、命を取り留めたとしても重い後遺症が残ることがあるからだ。かといって、手術しないと死んでしまうかもしれない。判断はかなり難しい容態だった。小脳に見られる出血が朝7時の時点で広がっていたら、もう助かる見込みはない。つまり手術する選択肢はなくなるということだ。
 朝7時になり、再びCTを撮ると、小脳の出血は重症化していなかった。そこで医師がリスクを承知で緊急手術を決断。妻や友人たちにそのことが伝えられる。手術しても助からない可能性があることも含めて。
 そして私は手術室へ運ばれていった。
 廊下で待つことになった妻は「昨夜は夢に向かって頑張る話をしていたのに│」と、現実が信じられない気持ちだったという。
※書籍『犬の笑顔が見たいから』より抜粋し、表記などを「いぬのきもち WEB MAGAZINE」に合わせて一部修正しました。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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