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犬を叱っても通じないどころか、むしろマイナスになる理由|連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.99

「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
前回に続き、今回も「叱る」がテーマ。 叱ってもまた同じことをしてしまうのは、犬に限らず、人もそうですよね。「だからなおさら、犬を叱っても伝わらないし、マイナスにしからならない」と西川先生。なぜマイナスに作用してしまうのでしょうか(編集部)。

「叱っても通じないのは、人間も同じようなもの」
そんな趣旨のユーザーコメントがありました。
何に対するコメントかと言うと、
「犬を叱っても”決して通じない”4つの理由とは?」という、「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が雑誌『いぬのきもち』の特集を元にWeb記事を作成し、Yahoo!ニュースに配信している記事に対してのもの。
このコメント、うちのカミさんには内緒にしたい。
「何度言ってもわからないのは、あなたも同じようなもの」って、意見されること間違いないですから。
まぁ、私の事情はどうでもいいのですが、コメントはまさにその通り。
そして「人間だって叱っても通じない」その理由を理解していくと、犬を叱ることがいかに無意味、いやむしろマイナスか、ということがよくわかってくる。

叱ることは、3つのプロセスからなる

叱られる、罰せられるのは、好ましくない行動をとったから。
好ましくない行動をとると罰せられる。
例えば、交通違反で捕まること。
交通違反で捕まると、時間も奪われ、反則切符を切られ、罰金も取られ、点数も引かれる(場合によっては免許停止、取り消し)。捕まった人は皆、嫌な気分になる。

お巡りさんは、どういった違反かを説明してくれます。スピード違反であれば、制限速度が時速何キロの道路を何キロオーバーしたから、捕まえたと。
そして、制限速度を守って事故に気をつけて安全運転で行ってらっしゃいと、解放される。
コレ、分析すると3つのプロセスから相成っている。

まず①嫌な気分にさせられる。次に②なぜ嫌な気分にさせられたのかを説明される。加えて③どうしたらいいかを教えられる。
この3つのプロセスをすべて経ることで、叱るという行為は完結する。
動物の行動学、学習理論や脳のことを勉強する前は、私も叱る行為はちゃんと伝わるはずと考えていた
Can! Do! Pet Dog School

叱られたって行動が改善するとは限らない

では、スピード違反で捕まった人は、以後制限速度を順守して車を運転するか。
気持ちとしてはそうであってほしいわけですが、違反を重ね免停にまで至る人もいるわけで、必ずしもイコール「行動の改善」と言えるわけではない。

②と③は言葉で伝えている。
日本人が日本国内において交通違反で捕まれば、日本語で説明されるわけです。にもかかわらず、それが伝わるとは限らない。
言葉が通じたとしても、そうなのです。

言葉というのは合図レベルの言葉ではなく、会話が通じるレベルのこと。
残念ながら、犬は会話レベルの人間の言葉を、理解することはできません。

すなわち、犬は叱られても、①の嫌な気分になるだけで、②のなぜそうなったのか、③のどうすればいいのかは、理解できない。
行動の改善が期待できないことは明らか、
ということなのです。
特に③の好ましい行動は、会話レベルの言葉の理解能力がなければ、言って聞かせても伝わらない
Can! Do! Pet Dog School

犬を幸せにすることができない

犬の立場になってみましょう(嫌な気分にさせられたが、なぜそうされたのか、どうすればいいのかが全く理解できない状態を想像してみるということです)。
車を運転していたら、お巡りさんに止められました。何か説明しています。しかし、なぜか今まで聞いたこともない言語で話しています。なぜ捕まったのかがわかりません。そもそも交通違反で捕まったかのさえも不明です。
そして微笑みながら解放されました。おそらく最後の方は、好ましい行動を教えてくれていたのでしょう。けれど、これも何を言っていたのかチンプンカンプン。
先の3つのプロセスでいえば、①の嫌な気分にはなったが、②のなぜそうなったのか、③のどうすればいいのかは、理解できない。
不安になりますよね、コレ。
叱られた犬も同じ。犬は不安になるだけなのです。
さらに言えば、解放されたあなたは、何だかわからないのでお巡りさんを避けるようになるでしょう。
犬も同じ。叱っているのは飼い主ですから、犬は飼い主を避けるようになる。結果、自発的なアイコンタクトを取らなくなる。自発的なアイコンタクトを取らなくなれば、幸せホルモンであるオキシトシンが増えることは見込めない。
犬も人も幸せになれない。犬を叱るとは、そういうことなのです。

ご理解いただけたでしょうか?
あ、そう言えば「犬を叱っても通じない」という記事に対するネガティブな(通じているという)ユーザーコメントの中には、「そもそも記事を書いた人は犬を飼ったことがないのでは?」というのもありました。
Web記事を作成したのは私ではありませんが、元の記事となる本誌の特集の監修者は私です。
私、犬、飼っています、何頭も。それに猫も、亀も。飼っているだけでなく、動物の行動学、学習理論や脳のことも勉強して、飼っている。
飼っているだけではわからないことが、たくさんあるってことですよ。
ただ飼っているだけではわからないことはたくさんある。動物の行動学、学習の心理学、脳の勉強をぜひ
Can! Do! Pet Dog School
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
https://cando4115.com/index.html

西川文二氏 プロフィール

公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can! Do! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(16才)、鉄三郎くん(12才)ともにオス/ミックス。
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