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「犬もうれし涙を流す」というニュース、これってどういうこと⁉|連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.150
少し前に「犬もうれし涙を流す」「犬は飼い主と再会すると『うれし涙』を溜めることが判明!」というニュースが話題になりました。このニュースの考察と、犬の涙について、西川先生が語ります(編集部)。
と、当コラムの担当編集者からメールが届きまして、早速メールに貼られていたリンクからそのニュース映像を見てみました。
内容は、飼い主と5時間離れていた犬が飼い主と再会すると、涙の量が増えたというもの。飼い主以外では涙は増えない。
涙はリトマス試験紙大の濾紙片で、吸い取ってその量を測っている。
涙を流すという表現は、人の場合は少なくとも目尻や目頭から涙があふれ頬を伝うような姿をイメージしますが、この研究でわかったことは、よくて「うれし涙」を溜める程度ではないか?
そう一人つぶやいていたら、他の媒体の記事には、「犬は飼い主と再会すると『うれし涙』を溜めることが判明!」と見出しが立っていた。
それなら納得です。
まぁいずれにしても、5時間離れていた飼い主と再会すると犬は涙を増やす。
そうそう、研究報告はポジティブな感情と涙の関係に関してのものですが、ネガティブな感情との関係、すなわちストレス下においても涙の量は変化します。
ストレス下では、涙の量が減るのですね、これが。
ストレス下では涙の量が減る
ストレスもそうした目の異常の原因となるそうです。
ストレス下では交感神経が優位に立ち、副交感神経に支配される涙の分泌が少なくなるから、というのがその理由と考えられます。
グルーミングを喜んで受ける犬であれば別ですが、犬の多くはシャンプー、ドライヤーにストレスを感じていることは想像に難くありません。
ストレスの影響で涙の分泌量が減り、いわゆるドライアイ状態に陥り、それが目の異常を引き起こすのではないか、ということです。
一般的に、グルーミング後は目薬をさしますが、「グルーミング中にも目薬をさすことをおすすめする」と、知り合いの獣医師は言います。
涙の量が減れば目が乾く、目が渇けば瞬きをする
不祥事を起こして記者会見をしている人などによく見られることです。
嘘をついているときにも瞬きは増えます。こちらは最近の政治家の説明会見でよく見らます。
こうした瞬きもストレスで涙の分泌が少なくなるからと考えられます。
犬も同様に(犬は不祥事や嘘にまみれた会見をする訳ではありませんが)、ストレスの影響で瞬きを増やします。
ちなみに、瞬きはカーミングシグナルのひとつでもあります(カーミングシグナルは、相手を落ち着かせる、自らを落ち着かせる、といった2つの意味を持つ犬のボディランゲージ。瞬きに関してはもっぱら前者の意味)。
瞬きがカーミングシグナルとなり得るのは、戦う意志がないことを伝えることにつながる(戦う意志があるときは瞬きをしない)からです。
私はあなたと争うつもりはないから、あなたも争いを仕掛けてこないで。
そう、カーミングシグナルとしての瞬きを見せるのも、結局は緊張状態にあるとき、ストレス下にあるときなのです。
うるうるした目に人間は弱い?
元の論文をたどるとそのタイトルは、「Increase of tear volume in dogs after reunion with owners is mediated by oxytocin」(国際科学誌「Current Biology」オンライン版に掲載)。
「飼い主との再会時に犬の涙が増えるのは、オキシトシンの仲介による」。
なるほど、この研究報告の最も大きな成果は、オキシトシンが関係していることの発見だったのか。
オキシトシンを点眼すると涙が増える(オキシトシンと涙には相関関係がある)らしい。すなわち、再会時涙が増えるのは犬のオキシトシンが増えるから、ではないか。
再会時オキシトシンが増える→そのことにより涙が増える(瞳がうるむ)→うるうるした瞳に人間は弱い→人間は保護したい気持ちを強くする→犬は人間の保護の元生き延びられる……そんなメカニズム(自らを人間に保護させ養育させるという生存戦略?)を、犬は進化の過程で獲得したのではないか。まぁ、そう想像できるわけですね。
うるうるした瞳に、人間は弱い。これは紛れもない事実でしょう。
かつて某CMでうるうるした瞳のチワワのくぅ~ちゃんが登場し、それをきっかけにチワワブームに火がついたなんてこともありました。
そういえば、ペットショップで「目があって運命を感じた」、と犬を衝動買いする人もいる。
きっとそのとき、その犬の目は、うるうるしているのでしょう。
うるうるした瞳には、時として注意が必要ということです。
なんといっても、衝動買いはいけませんからね。
西川文二氏 プロフィール
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