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すべては彼への反省から【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

わが家では、毎朝私が1番に起きる。そして、散歩の支度をして、玄関から「お前ら行くぞー!」と声をかける。しばらくすると、ちょっと面倒そうに大吉と福助が階段を降りてくる。日中、仕事をしているときは基本かまわないが、たまに用事で出かけるときも必ず夕方の散歩の時間までには戻るようにしている。どうしても間に合わなそうなときは、あらかじめ近所で仕事をしている嫁に頼んでおく。

だめ飼い主だった昔

夕食の後は、だいたい10時すぎになると、彼らをいったん家の外に出して、近くの空き地でオシッコをさせる(『主張に負けた』から)。特に福助は、夕方の散歩でウンチをしていなかった場合、なんだかもよおしているのが態度や表情から伝わってくることがある。そういうときは、大吉だけ家に戻して、いつもと同じ砂浜まで連れて行く(そこでしかしないから)。するとやっぱりウンチをして、すっきりした顔になる。それで1日が終わる。
だいたい犬と暮らしている人はこんな生活パターンではないかと思うが、私の場合、ずっとこうではなかった。むしろだめ飼い主の部類だったと思う。
30代のころ、先代犬の『富士丸』と暮らし始めた当時はこうではなかった。彼を心の底から愛おしく思っていたし、毎日の散歩やゴハンといった最低限のルーティンは欠かさなかったが、今思えば結構ひどかったなと思うこともある。
というのは、当時は24時間サポートセンターのようなところで派遣社員をしており、夜勤になることも多かった。そういうときは、夕方の散歩を済ませてから21時頃に出勤し、戻るのは翌朝5時か6時くらいになる。まだ3才くらいの富士丸を、ずっと一人ぼっちで留守番させていた。
戻ると朝の散歩に行き、ゴハンの準備をすると、私は疲れたから眠る。その間、富士丸はひまだったはずだ。長い留守番から主が帰ってきたと思ったら、お昼過ぎまで寝る。起きてちょっと遊んだと思ったら、また出勤していく。
毎日そうだったわけでないが、月に15日くらいは夜勤があった。帰る度に、玄関に置いてあったトイレシートを食い破られ、毎回「なんでこんなことするんだよ」としかったりもした。お前と暮らしていくために働いているのに、とため息をつきながら。そんなとき、富士丸は反省顔をしていた。でも、またやる。その繰り返し。なんで分かってくれないのか、といら立ったこともある。
仕事だけならまだいいが、まだ若かったからか、休みの日には飲みに行くこともあった。また富士丸は留守番だ。そして、泥酔した私は帰宅すると爆睡する。

だめ飼い主だった自分に気づいた瞬間

そんなある日、夜勤から戻ると、トイレシートが無事だった。そのときは「偉いぞ!」となでて褒めまくった。たしか彼が3才半くらいのことだ。そんな調子でトイレシートが3回に1回は無事、3回に2回は無事と減っていく中で、気がついた。富士丸は、大型犬で体力があり余っているのに、散歩の時間や運動量が足りないし、留守番が長いし、さびしかったのだ。悪いのは全部、私だった。
以前は「仕事なんだからしょうがないじゃん」とか「たまには飲みに行かせてくれよ」と言っていたが、すべては言い訳であり、私の都合でしかなかった。そのことを自覚したとき、猛烈に反省した。それから行動を変えていった。なぜなら、富士丸が勝手に家に転がり込んできたわけではなく、迎えたのは私だからだ。
以後、夜勤は少し続けたが、飲みに行くのを減らし、家に友人を呼んで飲むことが多くなった。ちょっと経ったころ、今でも恩師と思う人から誘われて、ライター兼編集者の見習いになった。夜遅くなるときは、デザイン事務所に富士丸を連れて行ったりもしていた。
その後、富士丸のことを綴ったブログが話題になったりして、書籍も出て、フリーランスになった。フリーランスになったのは、その方が稼げるからではなく、デザイナーでもない私がデザイン事務所にいても仕方なかったからで、家で仕事ができれば留守番の時間が短くなると思ったからだ。
そうやって改めて振り返ると、今の大福への接し方は、ほとんどすべて富士丸への反省からきている。あのころの「もっとこうしてあげればよかった」という思いが根底にある。
だから大福には、少しでも幸せに暮らしてもらいたいと思っている。幸せかどうか決めるのは本人だから、幸せだと感じてもらえればくらいしか言えないが、できる限りのことをしてやりたい。
©️Synforest
大吉と福助は知るはずもないが、今の暮らしは富士丸のおかげなんだよ。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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