先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
数日前、大吉の爪がはがれた。正確には、爪はまだ残っているので、はがれかけている。原因は、山の家で朝の散歩中に、凍って固まった雪の上で足を滑らせ、すっ転んだときに何かに引っ掛けたのだろう。
大吉に起こった爪のトラブル
そのときは、めったに転ぶことなどない大吉なので「何やってんの」と笑ったが、その後左前足を痛そうにちょっと上げたりしていた。ぐねったのかと思ってよく見てみると、1カ所爪がはがれかけており、血がにじんでいた。爪があらぬ方向を向いて、なんとも痛々しい。
こういうとき困るのは、何もしてやれないことだ。大吉は爪が弱い体質なのか、これまでも何度か同じように爪がはがれかけたことがある。最初はすぐに動物病院で診てもらったが、こういうときは自然にはがれるのを待つしかないとのことだった。無理矢理はがすこともできるが、その場合、全身麻酔の手術になる。であれば、様子を見つつ自然にはがれ落ちるのを待ったほうがいいだろうという話だった。
ずっと地味に痛いのだろう。いつもと違ってなかなか横にならないし、ちょいちょい左前足をあげている。ただ、散歩に行けば普通に歩けるから、激痛というわけでもないらしい。経過観察していると、日に日に痛みが増しているようすはないから悪化はしていないだろう。やはり自然にはがれるのを待つしかない。散歩から戻ると、触れないように水で洗い、化膿しないよう消毒液をスプレーしておく。が、気になるのかしきりになめる。
元気のない大吉とそれを見る福助の反応は?
こうなるともう、エリザベスカラーを付けるしかない。犬になめるなといっても通じないからだ。これも以前に経験したが、大吉が前足をやたらなめている時期があった。そのうち肉球周辺の毛が茶色に変色してきたが、それでも止めないどころか、ますますなめる。それを防ぐために、包帯で巻いたり、靴下を自作して履かせてみたりしたが、いつの間にか脱げていてほとんど効果はなかった。そして最終的に触ると「キャン」というまでになった。
これは指間炎(指間皮膚炎)で、細菌やニキビダニ、異物などが原因で、なめることによって増々ひどくなる。対策は乾燥させる(舐めさせないこと)ことで、それにはエリザベスカラーで強制的になめられないようにするのが1番だった。
そんな経験から、エリザベスカラーを付けることにした。ごはんや散歩、目の届くところにいるときは外すが、それ以外や夜寝るときは装着してもらうことにした。大吉にしてみれば、足が痛いのに、そのうえ自由まで奪われて災難でしかないと思うが、早く良くなるためにはがまんしてもらうしかない。
転んで以来、大吉のテンションがずっと低いままだ。痛さもあると思うが、「まさかオレが転ぶなんて」とプライドが傷ついたのかもしれない。「そんなに落ち込むなよ」と大吉をなでまくっているが、なかなかテンションは戻らない。
そして、なぜか福助もテンションが低い。兄ちゃんが元気ないのが心配なのか、気遣っているのか。いつもなら、突然襲いかかったりするのが、まったくやらず、ただそばにいる。
そして、なぜか私もテンションが低い。大吉と福助がしょぼんとしていると、どうも覇気がなくなる。この原稿も、ため息をつきながら書いている。テンションが低くて申し訳ない。
代わってやりたいくらいだが、今はとにかく早く大吉の爪が自然にはがれて、皮膚が乾燥するのを願うしかない。それにしても、犬のテンションって一緒に暮らす者にものすごく伝染するんだなと思う。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。