先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
今、八ヶ岳でこれを書いている。あまりの暑さから山の家に避難して来たのだ。私が暮らしている腰越(鎌倉市)は都心に比べると少しマシだが、それでも暑い。日が昇ると朝6時半ですでにアスファルトが焼けているので、毎朝5時半には散歩に行く。その後、夕方気温が少し下がるまで、ずっと大福はエアコンをかけた室内に閉じ込めている。
飼い主の暑さ対策、大福知らず
夜寝るときも寝室はエアコンをかけている。つまり、24時間エアコンがフル稼働しているのだ。2014年に引っ越してきたときは、夜、窓を開けて寝ればエアコンがなくても海風が涼しかったのに、今はもう無理だ。年々気温が上昇しているのを実感する。
大福は、暑くなった屋外を歩くことはないから、しゃく熱地獄を知らない。もともと私より早く起きることはないが、朝5時半に叩き起こすとすごく迷惑そうな顔をしている。早く散歩に行きたい私に渋々付き合ってあげている、という態度だ。「お前らが外でしかはい泄しないからやろ! だから早起きして気温があがる前に行ってるんだよ!」と言いたくなるが、黙って散歩を急ぐ。
休日に「出かけるの?」と期待しても、行くのは
動物病院くらいだし、それ以外は暑くてどこへも行けない。「暑いからやめとこう」と言っても理解してくれないから、彼らもストレスが溜まるだろう。
だまされたと思って、山へ是非
そんな日が続いていたが、よく考えたら腰越にいなくてはいけない予定が当分ないことに気が付いた。原稿仕事は山でもできる。7月中旬に横浜でイベントがあるが、その直前に帰ればいい。そんなわけで、腰越で予定のある妻を残し、私と大福だけ7月5日から山の家に来ている。
腰越を出るときは車の外気温計で33℃だったが、夕方、山の家に到着すると、なんと20℃。車を降りるとTシャツではちょっと寒いくらいだった。山の家は標高1400メートルほどなので、常に気温は平地よりマイナス10℃ほどなのは知っていたが、本当に涼しい(冬はマイナス10℃とか普通で超寒い)。
八ヶ岳だと、朝7時に散歩に行ってもまったく問題ないし、25℃くらいまでしか上がらないから、日中に出歩いても問題ない。腰越のエアコンの設定温度が26℃だから、真っ昼間でもそれより低いことになる。大福も快適なようで、ごきげんに走り回っている。信じられないかもしれないが、これは昼くらいに撮った写真だ。
夏のしゃく熱地獄は、犬と暮らす者によっては大問題だ。人間だって不快なのだが、犬にとってはまさに死活問題だ。私たちが毛皮のコートを着て歩いているようなものだ。しかも脱げないのだ。
たぶん犬と暮らす人は、この季節になると私と同じように毎朝早起きしたり、24時間エアコンをフル稼働させているのではないかと思う。そんな人は、八ヶ岳に遊びに来ることをオススメする。
遠く感じるかもしれないが、車だと都心から2時間半から3時間程度で、気温が10℃ほど低いところへ行けるのだ(ただし標高は1200メートル以上くらいでないとそこまで涼しくない)。
長い期間は無理だとしても、週末だけでもいい。それでも犬にはパラダイスだ。たとえば山の家の近所にある『
MIC HOUSE 』 は犬OKのペンションだし、夜は犬OKの居酒屋にもなるので、ずっと一緒にいられる。その近くには『
自然文化園 』もあり、このような木漏れ日の散歩道もある。
どこへも行けず不満がたまっている犬たちを、たまには遊びに連れて行ってあげないと。こっちに来ると、きっと顔を輝かせて喜ぶはずだ。山の涼しさは来てみないと分からないので、だまされたと思って、ぜひ。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。