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私がしつけのルーティーンをやめた理由【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

私は大吉と福助にオテ、オカワリを教えていないし、フセやゴハンを与える前のマッテもあまりやらない。散歩のときは右側を歩けとか、呼んだら来い、とかも要求しない。何か言うことに従えたらオヤツを1つあげる、ということもやらない。多くの飼い主が犬に教えるようなことはあまりせず、基本、好きにさせている。

編集室注:今回の記事は著者の個人的見解・経験に基づいたお話です

先代犬・富士丸としつけ

今ではそんな私だが、かつて先代犬の富士丸と暮らし始めた頃は全然違った。オテ、オカワリ、フセ、マッテ、全てを教え込もうとした。富士丸はりこうなやつで、それらはすぐに覚えた。
散歩のときに犬ぞりのようにグイグイ引っ張るのはなかなか直らなかったし、留守番中にトイレシートをグチャグチャに粉砕することにも悩んだが、あるときそれは彼が悪いわけではなく、私に原因があったと気付き深く反省した。
若い大型犬で体力が有り余っていたのと、留守番が多くて寂しかったのだ。それからは考え方を改め、なるべく富士丸の要求を飲むようにするようにしたら、3才半くらいで自然に落ち着いた。
それからはもう“あうんの呼吸”の関係になっていったのだが、オテとオカワリはまだやっていたと思う。そんなある日、ごはんを与える前に、オテ、オカワリ、フセ、マッテをルーティンのように要求する私に、富士丸は「そんなのいつでもできるけど、何の意味があるわけ?」と目で訴えてきた。お互い目を見ただけで意思疎通ができていたから、それが伝わってきたのだ。
たしかにそうだな、と思った。この行為に何の意味があるのか。しかも富士丸は食に対する執着心が薄かったから、マッテの後「よしっ!」と言っても「今はいいわ」と口を付けないことすらあった。だから食べることを期待して、フセやマッテをしているわけではなく、要求されるから仕方なく付き合ってくれていただけだったのだ。
また、当時からブログや連載をやっていたので、目線の写真が欲しいこともある。そんなとき、当初はオヤツを片手に「こっち見て」とやっていたが、それも「そんなので釣らなくてもいいよ。そっちを見ればいいんでしょ?」と目で言われ「うん、あ、ありがと」となってやめた。
この前、懐かしい映像を見つけてインスタにアップしたが、この中で富士丸がカッパ姿に変身するシーンがある。それは2度同じ場所に座ってじっとしてくれないと撮れない映像だが、オヤツなどでは一切釣っていない。「ちょっとそこ座っててくれない?」とお願いしただけだ。あいつは本当にこちらの意図を理解してくれるやつだった。

マッテだけは教える重要性とは?

そんなわけで、私の犬に対する接し方はすべて富士丸から教わった。その経験から、大福にもそうした要求はしない。彼らもりこうだから「そこに座ってて」と言えばやってくれるが、富士丸と違って「またぁ? 面倒くさいなぁ」というのが露骨に顔に出ることがある(特に大吉)。まぁ、彼らにとってはそうだろうから仕方ない。
これはオテ、オカワリが間違っていて、私が正しいという話ではない。私の場合はそうなったということである。
ただ、何でも好きにさせているかといえばそうではなく、たとえば散歩中にリードを落としたとしても動きを止められるよう「マッテ」と言えば動かないことは覚えてもらった。
あとはわりと好きにさせてきて幼い頃は困ったこともあるが(特に福助)、そのうち何の手もかからなくなった。
1つ残った問題が、大吉はフレンドリーだから大丈夫だが、福助は超犬ミシラーなので、散歩中にすれ違う犬にガウガウいうことだった。その度に止めていたが、あるとき「それ、いい加減やめてくれない? けんかしたって負けるよ? 止めてもらえると分かってけんか腰になるの、恥ずかしいからやめて」と言うと、ピタリとやんだ。
さすがに幼い犬はまだ分からないが、どんな犬も必ず落ち着くときが来るし、ある程度の年齢になると、話せば分かる。長い間、一緒に暮らして信頼関係ができているから厳しいしつけをしなくてもコミュニケーションが取れるのだとも思う。それらは間違いないと思う。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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