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福助の持つ力【穴澤賢の犬のはなし】

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福助の持つ力

福助を見ていると「お前は本当に大吉のことがすきなんだな」と、よく思う。一日に何度も戦いを挑んでいるし、無防備なときにふいをついて襲いかかったりする。もちろん本気ではないが、とにかく遊んでほしくて仕方ないらしい。

しかし経験と頭脳の差なのか、いつもだいたい大吉にやられている。山の家のドッグランでは、大吉によく転ばされている。こんなに簡単に転ぶ犬を見たことがない。それでもまったくこりない、めげないところは唯一感心する。

もう4才になる福助は、人間でいえばとっくに「成人」しているはずなのだが、未だに精神年齢は「お子ちゃま」なようだ。例えばボールが2個あったら、大吉が持っている方がほしくなり、それを奪い、余った方を大吉が拾うと、今度はそっちを奪い取ろうとする。“ばか”なんだろうか。

そんな悪ガキなのだが、大吉が見えなくなると不安そうになる。月に一度洗うとき、2頭同時には無理なのでまず大吉を風呂場に連れて行くと、福助は急にオドオドしはじめて、しまいには「キュ〜ン、キュ〜ン」と弱い声を出す。泣きそうな顔で「どこ行ったの? どこ?」という顔をしている。いや、風呂場だから。

大吉が寝室で本格的に昼寝しているときなど、たまに福助はひとりで私の仕事部屋に来ることはあるが、それはおそらく大吉がかまってくれないから暇でうろちょろしていると思われる。私のそばにいたいという気持ちもあるのかもしれないが、ひとりでいることはまずない。必ず大吉か、私達のそばにいる。彼には「ひとりの時間」は必要ないらしい。

なぜ福助は、大吉のことがそれほど好きなのだろう。思えば、福助はわが家に来た当時、抱き上げようとすると抵抗して本気で噛もうとするほど扱いにくい子犬だった。過去に何があったのかは知らないが、きっと怖い思いをしたのだろう。けれど大吉にだけはすぐに心を開き、遊んでもらったり、寄り添って寝たりしていた。

今では当時と比べ物にならないくらい穏やかな顔つきになったが、大吉に甘えた部分は残ったまま自立はしていない。大吉がいなくなったらどうするんだお前、とたまに思う。彼には、そんなこと想像もできないのだろう。「ばかでのんきで気楽な」やつだ。

ただ、色々な心配事があったり、やることが多くて精神的にちょっと疲れたときなどに福助を見ていると「ま、いいか」と思えたりするから不思議だ。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雪と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。

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