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2018年を振り返って「穴澤賢の犬のはなし」
気がつけば、今年も終わりに近づいている。あっという間の1年だった。夏には相次いで台風が来て、折れた木が山の家の屋根を直撃したり、その処理が終わったと思ったら今度は家の裏の木がなぎ倒され、また業者さんに頼んだり、痛い出費だった。
幸いそこまで被害も大きくなく、何より無事に大吉は7才、福助は4才を迎えることが出来て良かった。そして私の大事件といえば、やはり今年3月16日に自宅の階段から落ちて死にかけたことだ。
大げさではなく「頭蓋骨骨折」と「脳挫傷」、「外傷性くも膜下出血」その他諸々で、一時期は本当に危なかったらしい。それが助かったばかりか、後遺症もまったくなく、元通りになっていることが奇跡に近いと医者からもいわれた。
ただそのせいで、今年は時間の感覚が少しおかしい。というのは、入院して2週間の記憶はまったくないし、3週間目の記憶も断片的にしかない。しかも、退院してしばらくどこか曖昧だったりする。わりと早い時期にこの連載でもその辺りの話を書いているが、集中力が持たずいつもより時間がかかった気がする。
とはいえ、普通に生活して仕事もしていたし、自覚はなかった。が、たまにどこかふわふわした感覚はあった。退院して半年くらい経った頃だろうか、それがほとんどなくなったのは。そんな不明瞭な時期があるせいか、事故までのことが数年前ことのように遠く感じたりもする。今年はあっという間だったと感じるが、それは事故後の話だ。
いずれにしても、復活できて何よりなのだが、私としては「生きててよかった」よりも「死ななくてよかったぁ」という思いのほうが強い。言葉は似ているのだが、自分自身に対してではなく、人に対してそう思うのだ。色々あっても死んだら意識もそこで途切れるから、無念さも後悔も一緒に消えるはずなのだが、周囲の人は違う。
死ぬほうも辛いだろうが、残された人のほうが辛い。距離が近ければ近いほど。しかも突然であればなおさら。それは経験から知っているので、あのまま逝かなくてよかったなと思うのだ。大吉と福助の面倒を見られなくなっていたかもしれないという部分も大きい。友人たちや嫁はもちろん、この連載を読んでくれている人も、今年は心配かけてすみませんでした、本当に。来年もどうぞよろしく。
※次回の「穴澤賢の犬のはなし」 更新は1/7の予定です。お楽しみに!
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雪と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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