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賢さの「質」の違い「穴澤賢のいぬの話」

日々、大吉と福助の行動を見ていて不思議に思うことがある。大吉はもちろんだが、幼い頃に手を焼いたことのある福助も、今ではまったくといっていいほど手がかからない。留守中に破壊活動することもないし、人が仕事をしている後ろでは静かに昼寝している。

言葉もある程度理解している。私は昔からいわゆる「コマンド」は使わず、「オイデ」とか「ちょっとマッテ」というように普通に話しかるタイプだが、それで意思疎通はほとんど問題なくできている。

逆に彼らが表情や目で何かを訴えてくることもあるが、暮らしてきた中で何をいいたいのか、だいたいわかるようになってきた。だからコミュニケーションはとれている方だと思う。ただ、大吉と福助では微妙に違うのだ。

例えば、福助の考えを言葉に変換すると、「遊ぼ!」、「やった!」、「ちょうだい」、「もっとちょうだい」、「やんのか」、「こんにゃろー!」という感じで単純で短い。対して大吉の場合、「今何もしてないよね?だったらこれ(くわえているオモチャを)、引っ張って」、「もしかして、山に遊びに行く?」、「もう何日も食べてないんだけど、それひと口もらえない?」、「寝室に行きたいからドア開けて」というように文章で伝わってくることが多い。

もちろん犬は話さないから、あくまでもこちらの捉え方の問題かもしれないが、福助が「犬っぽい」のと比べると、大吉はなんとなく「人っぽい」のだ。「犬っぽい」のは当たり前だが、この「人っぽい」というのはうまく説明できない。擬人化して面白がっているわけではなく、本当にそういう意図を感じるし、行動から推測するとあながち間違っていない。きっと犬と暮らしている人はわかるのではないかと思うのだが。

別に福助がバカっぽいというわけではない。前に書いたようにドアは自分で開けるし、犬としては「利口」な部類に入ると思う(親バカかもしれないが)。むしろ大吉の方が、ふてくされていることがあったり、わかっているくせに無視したり、気分と好き嫌いで食べたり食べなかったり「自分」を持っていて、わがままだったりする。

この違いは、何なのだろう。年齢によるものではない気がする。なぜなら福助は1月で5才になったが、大吉は2才の頃からそういう気質があった。そういえば富士丸も5才になる頃には、二日酔いで苦しむ私を「バカじゃない?」という目で見ていたっけ。福助は、今のままでいいからな。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雪と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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