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クジラの背に乗った愛犬愛猫たち~ペットロスと向き合う飼い主

天国のクジラ
天国のクジラ
動物病院の先生と絵画アーティストが、飼い主さんの心のケアのために動いた、ある活動をご紹介します。

東京都大田区のクラウン動物病院の別館の壁に、巨大なクジラが現れました。

約6.5×2.5mの壁画です。「天国のクジラ」と呼ばれるこのクジラは、クラウン動物病院の上田隆喜先生とアーティスト長友心平さんの作品。
クジラの背には、亡くなったたくさんの犬、猫が、クジラの下には、今も元気いっぱいな犬、猫たちが描かれています。

愛犬が天国へ一人で旅立つと思うと、寂しい。

「愛犬が亡くなってずっとふさぎ込んでしまいました。でもこのクジラに乗って旅立ったんだと思ったら、本当にストンと心が軽くなって。あー、あのコは一人じゃない、みんなと一緒に旅だったんだと思えるようになりました」。
クラウン動物病院に通っていた飼い主さんが、このクジラの壁画を見ながらそう語ってくれました。話してくれている間、ずっと目に涙をためて、でも表情には優しい笑顔があふれていました。

壁画のクジラは心のケアのための「似顔絵イベント」が発端

愛犬の似顔絵:長友心平さんのサイトより
今回の壁画制作は、上田先生が画家・長友心平さんをお招きして開催した似顔絵イベントがきっかけでした。
「愛犬愛猫が亡くなってしまっても、当院のスタッフや自分に会いに来てくださる飼い主さんがいらっしゃいます。そんな方たちに何かできないか?と思っていました。
また、抗癌治療など難病治療中の愛犬愛猫のご家族は、精神的にも体力的にも疲弊していて。大きな目標はもちろん完治ですが、治療中の小さな目標として、そういった飼い主さんたちに少しでも元気を与えられないかなと思って始めたのが、似顔絵イベントでした」(上田先生)。

亡き愛犬愛猫の思い出を絵に残す、あるいは闘病中の愛犬愛猫を描いて一緒に頑張ろうと思う。その行為が、下ばかり向いていた飼い主さんの顔を上げることにつながりました。

この試みは評判を呼び、似顔絵イベントは毎年開催されることになりました。そこで絵を描かれていたのが今回の「天国のクジラ」を描いたアーティストの長友心平さんでした。

母の死をきっかけに描きはじめたクジラは11作品目に

その他のクジラ作品:長友心平さんのサイトより
その他のクジラ作品:長友心平さんのサイトより
「亡くなった母が、退職をしたら全国各地を旅行したいという生前の夢を叶えたいと思いました。天国では、自由に世界旅行をししているのではないかと思い、空を飛ぶ大きなクジラの背に母を乗せて、空を旅している絵を描いたんですよ。その絵を観た方々から、うちの家族もぜひ乗せてください!といった声が殺到し、気づいたら100人以上の人や動物が乗って旅するクジラになりました」。
長友さんはこれを機に「天国のクジラプロジェクト」という創作を始めます。

2015年には東日本の震災復興のために「天国のクジラ〜三陸海岸〜」というクジラ作品を描きました。震災で亡くなった人や動物たちが、笑顔で楽しくクジラの背に乗って旅をしながら、地上を見守っているという作品です。
アーティスト/長友心平さん
アーティスト/長友心平さん

「天国のクジラプロジェクト」

今回、クラウン動物病院に通院している、似顔絵教室の生徒さんが「長友さんの天国のクジラを、病院に呼びたい」と提案。上田先生も長友さんも2つ返事で賛同し、長友さんの作品11頭目になるクジラの制作がスタートしました。

壁画のクジラにはすでに50頭の犬猫が

クラウン動物病院の壁に描かれた天国のクジラ
クラウン動物病院の壁に描かれた天国のクジラ
クラウン動物病院の天国のクジラに乗せたい愛犬愛猫を募集し、クリスマスを目前とした12月、さっそく制作が開始しました。
「描くときは、亡き愛犬愛猫の写真を見せてもらって、飼い主さんの思い出話を聞きながら描くんです。何が好きだった?どんな性格だった?などのお話をしながら。飼い主さんはものすごく愛おしく教えてくれるので、とてもイメージしやすいんですよ」(長友さん)。
一頭ずつ特徴をつかんだ表情を描き、犬の名前も添える
一頭ずつ特徴をつかんだ表情を描き、犬の名前も添える
今回のイベントに応募した姉妹は、2頭のダックスフンドを描いてもらっていました。長友さんの筆の先をじーっと見つめて、「そうそう、こんな表情するよねー!」と懐かしい思いにふけっていました。
仲の良い2頭のダックスフンドをクジラが見つめています
仲の良い2頭のダックスフンドをクジラが見つめています
「左のコの方が先に亡くなって。右のコが兄弟のように面倒をみてかわいがっていたんですよ。だから2頭そばにいてほしいと思って。描いてもらえて、本当にうれしい。きっと虹の橋でも一緒にいる!」。
愛犬の絵を見つめる姉妹
愛犬の絵を見つめる姉妹
このイベントに参加した飼い主さんたちは、みなさん清々しい笑顔でクジラに乗る愛犬愛猫を眺めていました。

筆者の個人的な話ですが、筆者も昨年末に愛犬をなくし、ことあるごとに涙をこぼす1年でした。
今回このイベントに立ち会い、自分にからみついていた蜘蛛の糸のような、細くて長くなかなか切れない悲しみの糸が、一瞬フッと切れたように感じました。
「うちのコも、クジラに乗ったかな。一人じゃないな」。そう思うと、はじめて安堵感が生まれました。


*クラウン動物病院のすぐお隣、別館の外壁に描かれた天国のクジラは「天国のクジラ〜クラウン動物病院バージョン〜」と名付けられ、常時見ることができます。
(2020年12月時点の情報です)

協力/クラウン動物病院 院長 上田隆喜先生、アーティスト長友心平さん
取材・記事/いぬのきもち編集室 
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