犬は嗅覚はもちろん、聴覚も人間よりはるかに優れていると言われている。聞き取ることのできる音域は人間の2倍ほど広く、そのため人間には聞こえない「犬笛」なんてものある。ようするに犬は、耳が良いのである。
雷や花火に敏感な大吉
その影響があるのかもしれないが、大吉は雷や花火を極度に恐れる(福助は平気なので聴覚だけが原因とは考えにくい)。子犬の頃はなんともなかったのに、2才くらいから突然怯え始めた。遠くの空からちょっとゴロゴロ聞こえただけで、すぐにブルブル震えだす。
これはなんとかしてやらねばと、震えだしたらなでて「大丈夫だよ」と語りかける、何事もなかったかのように無視するなど色々試してみたが、効果はなかった。普段から雷の音に慣れさせればいいという説を知り、効果音CDの雷を聞かせてみたが、スピーカーから聞こえてくるゴロゴロには無反応だった。
生の音と違い、スピーカーから出るのは電気信号に変換された音だから、その違いが分かるのか。「やっぱりすごいなお前」と感心したのを覚えている。大吉にはアナログ(生の音)とデジタルがちゃんと認識できるらしい。
音に対する大吉の変化
と思っていたら最近、大吉はテレビから聞こえてくる音にも反応するようになった。ホラー映画などで落雷のシーンがあったりすると、大吉は「ナニ!?」と飛び起きてキョロキョロ慌てふためく。雷のシーンなどたいていすぐに終わるから、すると「なんだ、気のせいか」とホッとする。いや、映画だから。
それ以外でも、テレビから「ピンポーン!」とチャイムの音が聞こえると「誰か来た!」とワンワン吠える(福助も一緒になって)。いやいや、テレビだし、そもそもうちのチャイムの音と違うことに気付けよ。君は昔、アナログとデジタルの違いをちゃんと聞き分けられたんじゃないのか。犬の聴覚もやはり年齢と共に鈍くなるのだろうか。
大福の五感に関する検証
ほかにも鈍いと感じることがある。これは大吉と福助どちらもだが、ぼんやりしているときに近づくと、ビクッ!と振り返り「なんだビックリしたぁ」という顔をすることがある(おどかすつもりはなかったのに)。背後に誰かが近付く気配に明らかに気が付いていなかったのだ。
嗅覚と視覚にも疑問が残る。嫁の母親と妹(伯母)はよく似ているのだが、わが家に伯母が遊びに来たとき、福助はしばらく母親だと勘違いしていた(途中で気が付いて態度が変わった)。たしかに見た目は似ているから視覚はまだいいとして、お前の嗅覚はどうなっているんだ。
かと思えば、自分が好きな食べ物のニオイだけには敏感で、見えないはずのキッチンの上をしきりにクンクンしていることもある。以上のことから、大吉と福助は本来敏感なはずの感覚のうち、都合のいいもの以外はほとんどシャットアウトして暮らしているのではないかと思う。大丈夫かお前ら、と思うが、それで特に困ることもないからいいのだろう。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。