先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
わが家の大吉と福助は、定期的に健康診断を受けている。春から秋にかけて、犬にはフィラリアとノミ・ダニ予防薬を飲ませたほうがいいが、ワンシーズンをまとめてもらうのではなく、うちではあえて2カ月分くらいにして、なくなる度に動物病院に行くようにしている。そして体重の変化を見たり、聴診器で心音や呼吸音を聞いてもらったり、触診してもらう。日頃から嫌がられるほど触っているが、獣医師でないと分からないことがあるかもしれないからだ。
定期的な検診で気付くこと
さらに、年に一度は「血液生化学検査」と「CBC検査」を受けさせている。それによって「赤血球数」や「白血球数」、「ヘモグロビン値」、「尿素窒素」、「クレアチニン」などさまざまな数値が分かるので、何か異常があればいち早く気づくことができるからだ。加えて、たまにエコー検査もしている。
本当は7才を過ぎたら半年に1度くらいのペースで検査したほうがいい。なぜなら犬の時間は人間より短いので、どこか悪いところがあれば1年間で症状がどんどん進行してしまうこともあるから。しかし、今年は前回の血液検査から1年間空いてしまった。いかんいかん、気をつけないと。
定期的に動物病院に通うメリットとしては、他にも獣医師が犬の特徴を覚えてくれるということもある。いきなり診てもらうより、「このコは以前からこういう傾向があるから」と体の状態を把握しやすくなる。
そのために、たとえこの世の終わりのような顔をされても、診察室に入るのを全力で拒否されてもおかまいなく連れて行く。それはもちろん彼らのことを考えてだが、それだけではない。
「こうしてあげればよかった」と思わないため
愛犬(猫)との別れを経験したことのある人は分かると思うが、必ずといっていいほど「もっとこうしてあげればよかった」という後悔が残る。加えて「もっとしてあげられることがあったのに」と自責の念にかられる。私も富士丸のときに経験したが、それはとても重くてつらい。しかも1つや2つではなく、あらゆることでそう思う。
富士丸に関していえば、半年に1度の健康診断はしっかり受けていた。なのに7才半のある日帰宅すると倒れて、息絶えていた。結局、何が原因かは分からない(だからといって健康診断がむだだとは思っていない)。
あのときも「出かける前に、どこか変なところはあったんじゃないか? それを見逃したんじゃないか?」と幾度となく脳内で自分の声が聞こえた。
ほかにも「もっといろいろなところに連れて行ってやりたかった」とか、挙げればきりがないほど後悔した。犬との別れを経験した人と話すと、だいたいみんなそう思うことがあるという。
おそらく、何かしら後悔することは残るはずだ。そして、どれだけ愛情をかけてもきっとなくならないのだろう。それでも、1つひとつ潰していくしかない。後悔することを減らしたいから。
何より、大吉と福助が愛おしくて仕方ないからだが、本人たちにはそんな気持ちはまったく伝わっていないっぽい。
あと、自分の健康診断もね。毎日ちゃんと散歩に行けるように。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。