先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
ちまたには「犬は飼い主に似る」という説がある。確かに、ブルドッグを連れて歩くおじさんを見たらブルドッグ顔で、内心「めっちゃ似てる!」と思ったことはある。その一方で、強面のごつい男の人がチワワを抱っこしていて「眠いんでちゅかぁ」と猫なで声で話しかけているのを見て、「何そのギャップ!」と驚いたこともある。そういう「見た目」は置いておくとして、果たして性格まで似るものなのだろうか。そのことに関して、私はかねてから疑問に思っている。
大吉と福助は性格が全く違う
現在は大吉と福助と暮らしているが、「犬は飼い主に似る」のであれば、2頭とも似たような人格(犬格)になるはずである。しかし実際は、大吉と福助は全然似ていない。
まず大吉は、犬、人間問わず、誰にでもフレンドリーである。ドッグランなどで初対面の犬に対して、大型犬であろうとも物怖じすることなく挨拶できるし、気の合う相手を見つけるとすぐに一緒に走り回ったりする。それは人に対しても同じで、わが家に来た客に対してはしっぽを振って大歓迎し、一度会った人のことは忘れず、数年後に再会したりすると「久しぶりぃ〜!」と大喜びする。ちなみに、先代犬の富士丸もこのタイプだった。
対して福助は、超人見知りで犬見知りである。ドッグランで自分から挨拶することはないし、逆に挨拶してくる犬がいると避ける。その結果、必ず孤立する。人に対しても同じで、最初は「お前誰だ!」とばかりにワンワン吠えて距離を取るが、しばらくすると「あれ?いい人かも」となでられ放題になる。さらに、会ったことのある人でも3カ月くらい空くと、見事に忘れる。そしてまた「誰だお前!」と吠えた後、しばらくすると「あれ?この人会ったことあるかも」となでられ放題になる。これまでの経験上、犬は一度会った人のことは決して忘れないものだと思っていたが、福助を見て、こんなに綺麗さっぱり忘れる犬がいるんだと驚いた。このように、コミュニケーション能力という一面でも、大吉と福助はまったく違う。
愛犬と自分も性格が違う
その点で検証すると、私には大吉や富士丸のように「誰とでもフレンドリーに接する能力」はまったくない。知らない人が集まる会にはできることなら参加したくないし、初対面の人と仲良くなることなんてまずない。自ら進んで自己紹介することもないから結局孤立し、そこにいる気配を消して「早く帰りたい」と願うことになる。
そういう意味では、福助に近い。というか、彼の気持ちがよく分かる。だからなるべくドッグランも避けてやりたいのだが、社交的な大吉が行きたそうにするので、しばしの間、がまんしてもらうようにしている。たまにはそういう社会勉強も必要だからね。お前が言うな、ではあるが。
こう書くと、大吉が優等生タイプで、福助がだめ人間(犬)のように思うかもしれないが、実はそうでもない。
大吉は人や犬に対してはオープンマインドでウェルカムなのだが、花火、雷、暴走族(破裂音系)に対しては極度にビビりなのだ。遠くの空からゴロゴロ聞こえただけで、ブルブル震えて挙動不審になる。すぐ近くの江ノ島で花火大会があると「ドォォォーン!!」と腹まで響くような音がするので、ブルブルが単気筒のバイクくらいになる。自分の何倍もあるグレート・デーンにすら腰が引けることもないのに、花火や雷の何がそんなに怖いのか。
その隣で、福助はまったく何事もないように、ヘソ天で寝ていたりする。幼い頃は平気だった犬がある日を境に雷を怖がるようになることはよくあるが、だいたい3才頃までに決まるので、8才になる福助はもう大丈夫なのだろう。
ほかにも色々あるが、コミュニケーション能力と花火・雷だけとってもこれだけ違うのである。まったく同じ環境で育ったのに。以上のようなことから、「犬が飼い主に似るとは思えない」というのが私の結論だ。
3頭と私の不思議な共通点
ただ、不思議に思うことはある。富士丸も大吉も福助も、犬にしては珍しく、食に対して執着心がないのだ。普通の犬は与えたら何でも喜んで食べるものだが、彼らは平気で残すし、気が向かないとひと口も食べないことがある。そんな犬は、なかなかいないのに、わが家に来た3頭はなぜかみんな同じなのだ。
その点に関して、実は私も同じなのである。食に対して、あまり執着心がない。もちろんおいしいものは好きだが、食べることが目的になることはない。たとえば、評判の店に行くために出かけるとか。「ついで」ならいいが、わざわざそのためだけに行くようなことはない。いつも行列ができているおいしい店があっても、並んでまで食べたいとは思わない。貧乏育ちなのに好き嫌いもあるし、「これ、食べる?」と勧められたりしても、わりと平気で「いらない」と言ったりする。それは「これ、食べる?」と勧めたときにそっぽを向く大吉の態度とモロかぶりする。
以上を踏まえて若干修正すると、「犬が飼い主に似るとは限らないが、中にはなぜか妙に似ていることもある」くらいだろうか。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
ツイッター
インスタグラム
大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。