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「イヌ」の比喩は間違っている(?)【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

前々から「イヌ」の比喩について「ちょっと違うんじゃない?」と思っていることがある。たとえば、映画やドラマなどで潜入捜査官のことを「サツのイヌ」と言ったりする。他にも身分を隠して組織内に入り込む人物を「あいつはイヌだ」と言ったりもする。ようするに「裏切り者」や「密告者」、「スパイ」などを指す言葉として「イヌ」がよく用いられる。洋画を観ていても「dog」がそういう意味で使われることがある。

イヌはスパイなのか?

しかし、長年犬と暮らし多くの犬と接してきた中で、そんな犬は見たことがない。そもそも身分を隠して近づくというような器用なことはできない。だから、スパイになんてなれないのだ。
たしかに、飼い主の友人がオヤツをくれたりすると、飼い主そっちのけでその人にピタリと寄り添うことはある。でも、裏切っているわけではない。単にオヤツに釣られているだけなのだ。
それは別に犬に限った話ではなく、食べ物が目当てで近寄る動物はたくさんいる。なのになぜ犬だけ裏切り者扱いされないといけないのか。

犬飼いはちょっと納得できない?

ほかにも「イヌ」が権力者にこびへつらう「下僕」のような意味で使われることがあるが、それも違うと思う。犬は飼い主に従順というイメージがあるかもしれないが、そんなことはない。犬と暮らしたことのある人なら分かると思うが、嫌なことは聞こえないふりをするし、気分(雰囲気)によっては呼んでも来ないこともある。
わが家の大吉と福助の場合、「オテ」や「オカワリ」は教えてもいないから一切やらない。唯一、リードを落としたときに道路に飛び出すと危険なので「ちょっと待って」と言うと、動きを止めることだけは覚えてもらった。それ以外は、別に従順でもない。
私が出かけるときに見送りにも来ないし、帰宅しても出迎えない。来るとしても気分か、留守番の時間が5時間を超えたときに「どこ行ってたんだよもう」と不満そう顔をするかどちらかである。こびへつらう気なんて全然ない。多少の差はあれど、犬は「下僕」ではない。ちゃんと個性があるし、主張もする。
以上のような「事実」を踏まえると、世間一般で使われる「イヌ」の比喩は間違っていると思う。
ただ、福助についていえば、実はすごく気が小さく、けんかも弱い(したことがない)くせに、すれ違う犬から吠えて威かくされたりすると、「なんだ!やんのか!」と威勢よく吠え返すことがあった(今はやらなくなったけど)。お互いにリードにつながれており、目一杯引っ張っても決して届かない距離であることをちゃんと意識したうえで。
この点について、「弱いイヌほどよく吠える」というのは当てはまっていると思う。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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