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悩みを抱えた若者たちが保護犬をトレーニング 新しい家族の元へ

心に傷を負った保護犬のトレーニングを介して、青少年の自立支援を行う「NPO法人キドックス」を立ち上げた、上山琴美さんの活動を紹介します。

1回目の記事|不登校、引きこもり……悩みを抱えた若者たちが、保護犬と出会った

2回目の記事|保護犬と受刑者が関わる更生プログラム「プロジェクト・プーチ」とは?

世話をする若者と犬とのマッチングが大切

毎朝の日課である散歩後の犬のお手入れタイムには、上山さんが犬の歯のみがき方などを解説。若者たちはスマホでその様子を録画するなどして、真剣な眼差しで学びます。
キドックスでは、悩みを抱えた青少年が通いで訪れて、保護犬のお世話、トレーニングを行っています。

「若者たちにはそれぞれ担当の犬が決まっていますが、ケースバイケースで担当する期間は変えています。1カ月ごとに変わることもありますし、扱いの難しい犬の場合は、絆が深まるよう特定の若者に半年ほど担当してもらうことも。プログラムを行ううえで、もっとも大切なのは、人と犬とのマッチングなんです」と上山さんは解説。

まずは、犬をトレーニングしやすい順にAからDランクに分け、そして、トレーニングする側の若者たちの技術レベルを4つ星から星なしに分けます。

「星なしは、しつけ初心者なので、担当するのはAランクの誰にでもなつきやすい犬、というようにマッチングしていきます。そしてトレーニング技術を上げると、より難度の高い犬の担当となり、若者たちは自信をつけていくんですね」

キドックスの犬たちは、主に茨城県の動物指導センターや、民間の保護施設から引き取っています。犬のトレーニングプランを考え、ランク分けをし、若者たちとのマッチングを的確に行うのは、プロのドッグトレーナー里見潤さん。みんなが信頼するスタッフのひとりです。

保護犬との交流で、若者にも変化が

犬のお手入れをしながら、犬とたくさん触れあうことも大切。
ここに通う若者たちは皆、真剣な眼差しで、心からの愛情をもって犬と向き合っています。基本的なしつけを行う際も、大きな声を出すこともなく、ささやくようなやさしい声で指示を出しています。

「ここに来る若者の多くは、静かな性格で自己主張をするのが苦手な傾向にあります。心に傷を負った犬の多くはビビリだったりするので、大声で指示したり、叱ったりすることのない若者たちのやさしい声に安心するんだと思います」と上山さん。

心に残るエピソードとしては、職場のストレスから自宅に引きこもってしまった女性が、保護犬と関わる「シェルター部」に参加したときのこと。その女性は、何事にも受け身で自分の意志を人に伝えるのが苦手だったそう。

「彼女が自然に自己主張できるように、担当してもらう犬はとにかく怖がりで、人がどんどんリードしていく必要のある犬にあえてしてみたんです。すると、その犬と接していくうちに、彼女の中に積極性が芽生えてきたんです。あるとき、その犬の今後のトレーニング方針などを相談しているときに、はっきりと自分の考えを主張してきてくれて、そのときは本当にうれしかったですね」

犬の譲渡率を上げるために設立したキドックスカフェ

カフェ内のボードで、犬たちのプロフィールを紹介。また、カフェ担当の若者たちが手作りしたスイーツも楽しめます。
2018年4月には、キドックスファームから車で10分ほどの場所に「キドックスカフェ」を設立。営業は毎週土曜日から月曜日で、ここに行けばトレーニングが完了した譲渡対象の犬たちと会うことができます。遠方から犬たちに会いに訪れてくれる人も多く、カフェ設立によって犬の譲渡率がぐんと上がったとのこと。

最後に上山さんは、「今後は、若者たちが犬を介して就労訓練ができるトリミングサロンや動物病院などの総合施設を設立し、地域に密着したサービスを提供していければと考えています。その夢を達成するまで、時間はかかると思いますが……」と語ってくれました。

※各情報は2019年10月30日現在の情報です

出典/「いぬのきもち」2020年2月号『犬のために何ができるのだろうか』
写真/尾﨑たまき
取材・文/袴 もな
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