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犬への合図に威厳は必要なし|連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.46

「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
今回は、オスワリやフセ、オイデなど、犬に出す合図のお話。「号令、命令、コマンド、指示語」などいろいろな呼び方がありますが、はたしてどれが正しいのでしょう? 合図を出すタイミングや、厳しく言ったほうが効き目があるかなど、さまざまな疑問がクリアになりますよ(編集部)

「指示は英語がいいか日本語がいかか?」などの議論が真剣になされていた時代は、そういえば指示のこと、コマンド(Command)って言っていましたね。
今でもコマンドは多くの人が口にしますけど、私は口にしません。
私が英語で使うのは、キュー(Cue)です。
Cue
辞書によっては、「きっかけ」「手がかり」という意味が上位に出てくる。
現在の私の理解というか定義では、何かすればほめてくれるけど何をすればいいのかなと期待している犬に、何をすればいいかのヒント、手がかりを与える。そのヒント、手がかりが、Cueということです。

なぜ「コマンド」を使わないか

コマンドだけではありません。号令も、命令という言葉も使いません。
犬は服従させて当たり前、犬との目指す関係は主従関係などと、いわば御庭番である番犬や警察犬訓練所で訓練され戻ってきた犬が大半を占めていた時代においては、号令、命令、コマンドというワードを、私も違和感なく口にしていたかと記憶しています。
しかし、2000年代に入り求める犬の姿も変わり、私自身、学習の心理学の理解、とくに三項随伴性を理解することで考えを改めていきました。
三項随伴性の「先行刺激→行動→結果」は
英語では「Antecedent→Behavior→Consequence」と記されます。
先行刺激が合図となった場合は、弁別刺激と言い換えてもいいのですが、
こちらの方は「Discriminative Stimulus」。
いずれも、コマンドというワードが出てこないわけです。

Cueとの出会い

学習の心理学に忠実に則ったトレーニング、それは間違いなくクリッカートレーニングといえるでしょう。
Cueというワードは、クリッカートレーニングの教則本に使われていました。
教えたい行動は、クリッカーを使いまずその行動の頻度を高める。
行動の頻度が高まっていったら、行動を起こす直前にCueをつける。
するとCueに反応して行動を起こすようになる。
前回ダップのクシャミの話をしました。
実はあれ、クリッカートレーニングで教えたものです。
「クシャミをしたらフード……」と、端折って記しましたが、クシャミをしたらクリッカーを鳴らしてフード、クシャミをする直前の仕草がわかるので、Cueを前触れ(先行刺激)として発した、というのが正しいところなのです。
自発的な行動を捉えてクリッカーを鳴らすことを「キャプチャリング」という。鉄三郎にはキャプチャリングで「敬礼」を教えた

合図に威厳など不必要

かつて号令は威厳をもってはっきりと発する、などともよく本も出ていました。でも、それは服従させる、主従関係を重んじる世界の話。
コマンドや号令や命令も、そうした世界の話です。
共生を目指すのであれば、合図は何をすればいいのかのヒント、手がかりと考えることです。そこに威厳など必要ないのです。
あなたの犬はドライフードを食器に注ぐ音に反応してそばまで来ませんか?
三項随伴性で記せば
「ドライフードを食器に注ぐ音(先行刺激)→飼い主の元に行く(行動)→フードがもらえる(結果=いいことが起きる)」
となります。
オイデも同様です。
「オイデという声がけ(先行刺激)→飼い主の元に行く(行動)→フードがもらえる(結果=いいことが起きる)」。
ドライフードを食器に注ぐ音に威厳など持たせられませんが、100%の確率であなたの元に来るはずです。
オイデの方はどうですか? いわゆる威厳を感じさせるような声と態度で犬を呼ぼうとすればするほど、犬はそばに寄って来ないはずです。
合図に威厳など、まったく無用。そういうことなのです。
威厳を感じさせる態度は、相手にストレスを与える態度ともいえる。喜んでやってくるように教えるには、威厳(=ストレスを与える態度)は百害あって一利なし
文/西川文二
写真/Can ! Do ! Pet Dog School提供
https://cando4115.com/index.html

西川文二氏 プロフィール

公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can ! Do ! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『イヌのホンネ』(小学館新書)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!柴犬ぐらし』(西東社)など。愛犬はダップくん(15才)、鉄三郎くん(11才)ともにオス/ミックス。
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