年を取るにつれ、家で排せつしなくなる犬が多いという話を聞いた。富士丸もそうだったし、大吉と福助も同じだ。子犬の頃は、あんなに家のいたるところでオシッコしてくれて、その度「あぁまた!」と焦っていたのがうそのように、外でしかしなくなる。
家でもトイレ作戦を考える
犯行現場のカーペットを、タオルで必死にトントンたたかなくてよくなったが、このままでは困る日が来ると思っていた。それが彼らのルールになってしまうと、今はよくても年老いて足腰が弱くなったときに、ちょっとオシッコするためだけに外に出なくてはならない。
彼らにとって、その度に階段を昇り降りするのはきっと負担だろう。であれば、今のうちから家の中でもするくせを付けておいた方がいい。そう考えて、パントリーの下にトイレシートを敷いたスペースを作り、毎晩寝る前にそこでオシッコするよう促すのが日課になっていた。
大吉は、渋々といった感じでそこでオシッコをするようになった。福助はなかなかやらかったが、次第に大吉の後に続いてしてくれるようになった。しめしめ、これでよしと思っていた。
作戦成功と思いきや
しばらくそんな状態が続いたが、あるときから福助がまたしなくなった。大吉はちゃんとしてくれるのに、知らん顔をするのだ。そのまま無視して寝てもいいのだが、そうすると夕方の散歩から翌朝までしないことになる。
頑なに家ですることを拒んで朝までがまんしているのかもしれない。そう思うと何だかモヤモヤするから、仕方なく家の外へ連れ出す。幸い、家の前には舗装されていない小さな駐車場があり、隅にはいい感じに雑草も生えている。連れ出せばすぐその辺りでするから5分もかからない。
結果的に、大吉は家のトイレでオシッコをさせて、その後福助だけ外に連れ出して用を足すということになる。それでは何となく大吉に申し訳ないから、毎回福助にも促すのだが、やはり頑として拒む。だからまた外に連れ出す。そんなことを繰り返すようになる。
そのいっぽう、山の家に行ったときはドアを開ければドッグランだから、夜寝る前、大福に「おーい、お前ら行って来い」と言えば、どちらも出ていってオシッコをして戻ってくる。あるとき、これでは一貫性がないのではないかと思った。
作戦は失敗か
自宅では家の中ですることを強要され、山の家では外に出される。本当はいつも外でしたいのに。顔にそう書いてある。それを説き伏せる整合性がない。そう思ってからは、家でも毎晩大吉と福助を外に連れ出すようになった。
物分りのいい大吉は何とかなるかと思ったが、主張を曲げない福助の抵抗により、家でトイレ作戦は敗北した。まぁ仕方ない。オシッコは外でしたいんだろう。彼らの主張を尊重するか。大型犬なら体力的に無理だと思ったが、彼らはどちらも15キロくらいだ。この先足腰が弱くなったら、抱きかかえて階段を昇り降りすることにしよう。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。